シンプルシステム株式会社

代表事例 / 窓口のある団体 / 小口現金と決裁

記録を残すためではなく、合わないその日に気づくために。

窓口で受け取る現金と、小口の支払い。紙で回していた決裁。この二つを、一日の終わりに「合っているかどうかが分かる」形にした記録です。ある地域の経済団体でお使いいただいています。

作った過程は 開発記録 に 5 本公開しています。団体名・地域・金額など、特定につながる情報は伏せています。お客様の画面は掲載していません(掲載には先方の許可が要ります)。

01 困っていた仕事

金庫の中身と、帳簿が合っているか

要件の一行目には、記録を残すことが目的ではない、と書いた。合わないときに、その日のうちに気づくことが目的だ。 開発記録 60-1「レジを置かない——感熱紙は、七年もたない」より

窓口では、会費や検定料を受け取ります。同じ金庫から、旅費や消耗品の支払いも出ます。どちらも現金ですが、帳簿の上では別の残高です。ここを一つにまとめて数えると、合っているのか合っていないのかが分からなくなります。紙で回していた決裁も、誰のところで止まっているかが見えませんでした。

窓口で受け取る現金 会費・検定料・折込料など。当日中に預金へ入れます。 釣銭準備金とは別に数えます。
小口の支払いに使う現金 旅費・消耗品など。定額前渡——使った分だけ補給して定額に戻します。受け取った現金とは、行き先がまったく違います。
紙の決裁 伺いの様式があり、決裁欄の並びも言い回しも決まっています。回覧は起案者に近い段から。前の段が押すまで次は押せません。

02 実際に作った仕組み

まず、レジを置くのをやめました

最初の構想には、タブレットとレシートプリンタ内蔵のキャッシュドロアが載っていました。一台で「受け取って、印刷して、しまう」が済みます。 いったん勧めてから、撤回しました。理由は三つです。

紙が七年もたない レシートプリンタの感熱紙は数年で文字が薄れます。 領収書の控えは七年保管します。消える紙に、七年残す記録は印字できません。
様式に合わない 会費や検定料の領収書が幅五十八ミリで出てくると、受け取る側の様式に合いません。
つなげない 候補の機種は有線のネットワークを持たず、暗号化された画面から事務所内のプリンタへ直接印刷を投げると、ブラウザが止めます。

決めたのは、PC のブラウザと、事務所にある普通のプリンタでした。領収書は A4 で正と控を印刷します。現金は金庫で保管し、一日の終わりに金種表で数えて帳簿と照合します。外した機器の分だけ、構築も運用も単純になりました。

残高を、保存しない

帳簿の残高をデータベースに持たない、と最初に決めました。画面に出る残高は、開くたびに伝票から計算し直します。

小口現金の残高

定額 − 未補給の支出 − 未精算の仮払

窓口の収受金

釣銭準備金 + 現金収受 − 預け入れ − 支出

これは画面の写しではありません。当社が決めた計算の規則そのものです。
保存した残高と伝票がずれる事故は、残高を保存するから起きます。最初から保存しなければ、構造として起きません。

03 人が確認する部分

合わなかったときに、理由を残す

仕組みが自動で判断してよいことと、人が決めるべきことを分けました。差が出たときに機械が黙って辻褄を合わせると、その日のうちに気づくという目的が消えます。

実査で差が出たら 理由の記入を必須にします。差を無かったことにはしません。
起票した本人は その伝票を承認できません。作る人と認める人を分けます。
締めた期間は 書き込めません。解除するなら理由を残します。
番号は 採ったら必ず伝票を残し、取り消しても欠番にしません。 抜けている番号があるのか、取り消したのかが、後から分かります。
添付が無いまま 回覧を始めようとすると警告を出します。決裁の対象は案内文そのものだからです。
印紙は 既定を不要とし、切り替えれば税抜五万円以上で必要と表示します。 決め打ちにせず、稼働の翌日に団体の側で確認していただいて確定しました。

04 どこまで確かめたか

試験が全部通った状態から、六件出ました

423通し試験
28実ブラウザで押す試験
64タブレットで触る試験
6それでも見つかった
重大な穴

左の三つがすべて通っている状態で、別の AI に監査を頼みました。重大な穴が六件出ました。見つけ方は三つ——境界値、同時実行、不正な送信。 どれも、それまでの試験に無かった見方です。

稼働当日に動かなかった 決裁の否決ボタンを押すと「決裁の内容が不正です」と弾かれました。二重送信よけが押されたボタンを無効にしていて、そのボタンの名前と値が送信内容から落ちていたためです。通し試験 148 件は通っていました。サーバへ直接送っていて、ブラウザの経路を通らないからです。 → 実際のブラウザでボタンを押す試験を新設しました。
監査で出た六件 小口現金の箱に領収書を切れた。窓口の箱から仮払を出せた。伝票はできるのに残高が動かない。仮払の追給が出納帳から抜けていた。補給を二つ同時に走らせると二重に補給された。添付が無くても回覧を始められた。
試験そのものを壊してみた 直したあと、九通りに壊して試験が落ちるかを見ました。四つは落ちませんでした。 その振る舞いを、試験は何も見ていなかったということです。塞いで八つが落ちるようにしました。 残る一つは守りが二重で、両方外して初めて四件が落ちました。 落ちない理由が「守られているから」なのか「見張れていないから」なのかを分けないと、試験が効いているとは言えません。
再監査で、まだ三件 一段目の承認後でも添付を差し替えられた。仮払の同時精算で支出伝票が二件できた。預け入れの同時実行で、手元の一万円に対して二万円を預けられた。 状態の名前で許可を書くと、状態が増えたときに穴が空きます。 「何が起きたら触ってはいけないのか」で書き直しました。

この節の数字は、すべて 開発記録 60-3 に書いてあるものです。作業時間がどれだけ変わったかは測っていないので書きません

05 うまくいかなかったこと

本番で、二回壊しました

良かったことだけ書くと、次に同じことを繰り返します。そのまま残します。

添付の実体を消した 動作確認で作った起案を片づけるとき、その添付ファイルの実体を消しました。添付は中身のハッシュでファイル名を決めているため、担当の方が添付していた同じ PDF と実体を共有していて、そちらまで消えました。手元に同じ内容のファイルが残っていたので、ハッシュと大きさを照合して復旧しました。
メールが飛ぶ寸前だった 二日後、本番に「動作確認」と題した報告を作りました。担当の方あてに二通が送信待ちになりました。送信は五分おきに動きます。送られる前に気づいて取り消しました。 → 本番で確認用のデータを作らない。本番では読むだけに徹する。
直したと、配ったは別だった 監査で直した三件が、本番では直っていませんでした。報告した日に配ったのは一部で、六ファイルが未反映でした。 → 配ったらサーバ側で全ファイルの指紋を照合する形にしました。
根拠の無い上限 朱書きの画面が「一/三十ページ」になっていました。その事業報告書は九十五ページあります。 上限を三十で黙って打ち切っていました。 報告してくださった方は十ページ目に書いていたので気づいていません。 上限で黙って切ると、切られた側にはそこで終わりに見えます。
見えてはいけない人に見えていた 決裁の経路に含まれない職員にも、起案の一覧も詳細も添付も見えていました。直したつもりの後で、添付を返す口だけが権限の判定を自前で書き写していて、そこだけ制限が効いていないことを試験が見つけました。判定は一か所に集めました。

06 いまの段階

どこまで確認できていて、どこから先は確かめていないか

確認できている段階 稼働しています。稼働の翌日から、実際にお使いの方の報告が届いています。報告のボタンは全画面の右下に固定してあり、開いていた画面の場所ごと記録されて届きます。
続いていること 届いた要望に回答を書き、対応済みにする運用が回っています。 回答を書かずに「対応済み」にはできません。
まだ言えないこと 作業時間がどれだけ変わったかは、測っていません。 照合にかかる時間も、決裁が回る速さも、測る仕掛けを入れていません。測る前に効果を書くことはしません。
載せていないもの お客様の画面は 1 枚も載せていません。稼働中の実システムで、掲載には先方の許可が要ります。架空の画面も作りません。

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