最初の構想には、タブレットと、レシートプリンタを内蔵した小さなキャッシュドロアが載っていた。ある地域の経済団体の窓口で動く現金、会費や検定料、折込料の収受と、旅費や消耗品の支出を記録し、領収書を出し、金庫の中身と帳簿を毎日突き合わせる仕組みを作る話だった。窓口にレジのようなものが一台あれば、受け取って、印刷して、しまう、が一台で済む。そう見えた。
領収書の控えは七年残る
撤回した理由は三つあった。一つ目は紙だ。レシートプリンタが使う感熱紙は、数年で文字が薄れる。領収書の控えは七年保管する。数年で消える紙に、七年残す記録を印字するのは、用途に合わない。二つ目は体裁で、会費や検定料の領収書が幅五十八ミリのレシートで出てくると、受け取る側の様式に合わない。三つ目は接続だった。候補にした機種は有線のネットワークを持たず、タブレットから印刷するには専用の経路を通す必要があった。私は一度、それで行けるつもりの構成を勧めてから訂正した。
さらに一つ、設計の根にかかわる制約があった。暗号化された画面から、事務所の中にあるプリンタへ直接印刷の指示を投げると、ブラウザがそれを止める。安全でない通信の混在として扱われるからだ。将来レシートプリンタを足すなら、この制約から設計をやり直すことになる、と記録に残した。
普通のプリンタと、金庫
決めたのは、PCのブラウザと、事務所にある普通のプリンタだった。領収書はA4で正と控を印刷する。キャッシュドロアは使わず、現金は金庫で保管し、一日の終わりに金種表で数えて帳簿と照合する。外した機器の分だけ、構築も運用も単純になった。
現金は二種類ある、というのもこの時に整理した。窓口で受け取る現金と、小口の支出に使う現金は、同じ金庫に入っていても帳簿の上では別の残高だ。小口現金は定額前渡の方式で、使った分だけ補給して定額に戻す。受け取った現金は当日中に預金へ入れる。ここを一つの残高で扱うと、合っているのか合っていないのかが分からなくなる。
紙の様式を、そのまま画面に
現金と並んで、外部に出す文書の決裁も電子化することになった。紙の伺い様式があり、決裁欄の並びも本文の言い回しも、それに合わせた。回覧は起案者に近い段から始まり、前の段が押すまで次は押せない。印刷は紙と同じで回覧順の逆に並べる。決裁の対象は案内文そのものなので、添付が無いまま回覧を始めようとすれば警告を出す。決裁と朱書きだけは、役員がタブレットで見ることが分かったので、横向きと縦向きの両方で操作できることを試験で担保した。
印紙は要るのか
領収書を出す以上、印紙の話は避けて通れない。営利を目的としない法人が出す受取書は、営業に関しない受取書として非課税と解される。仕組みの既定は印紙不要とし、切り替えれば税抜五万円以上で印紙が必要と表示する形にした。決め打ちにはせず、稼働の翌日に団体の側で確認してもらい、印紙不要で確定した。確定した事柄は、記録に「蒸し返さない」と書き添えた。作っている途中で何度も同じ論点に戻ると、決まったはずのことが揺れる。
一日の終わりに気づくために
要件の一行目には、記録を残すことが目的ではない、と書いた。合わないときに、その日のうちに気づくことが目的だ。実査で差が出れば、理由の記入を必須にする。起票した本人はその伝票を承認できない。締めた期間には書き込めず、解除するなら理由を残す。番号は採ったら必ず伝票を残し、取り消しても欠番にしない。仕組みの機能というより、現金を扱う場所の作法を、そのまま画面に写した。
次の回は、残高をどこにも保存しないと決めた話を書く。