作り直しでいちばん危ないのは、見た目を整えるついでに、情報を整理してしまうことだと思っている。古いサイトは、たしかに読みにくい。文章が長く、注意書きが多く、否定形が並ぶ。だから新しくするときは、それらを削ってすっきりさせたくなる。だがそこに書いてあるのは、たいてい、店が長年の商売の中で決めてきた運用そのものだ。読みにくいから消す、をやると、店の側の手間だけが増える。今回の作り直しでは、事実は一つも足さない、そして一つも引かない、を最初に自分に課した。
消したくなる二行こそ、残して目立たせる
分かりやすい例が、酒樽の貸し出しだった。結婚式や竣工式で鏡開きをするために、店は樽を貸している。これは店の売りの一つなので、新しいページでも見出しを立てて紹介したい。ところが元のサイトを読むと、その紹介の下に条件が二つ書いてあった。一升瓶を決められた本数以上お買い上げのお客様に限ること。そして、品薄が続いている特定の銘柄については、樽単体での貸し出しは受けられないこと。この二行は、書き直すときに真っ先に削りたくなる種類の文章だ。長いし、否定の形だし、せっかくの祝いの話に水を差す。しかし削ればどうなるかというと、条件を知らずに電話をかけてきた人に、店主が毎回、口頭で断ることになる。断る仕事は、店にとっていちばん消耗する仕事だ。だから消さなかった。それどころか、この二行だけを枠で囲んで、本文より目立つ位置に置いた。条件は、隠すほど現場の手間になる。
誰かが毎月直さないと嘘になる仕組みは、作らない
もう一つ迷ったのが定休日だった。この店は、祝日であるかどうかに関わりなく、毎週決まった二日を休みにしている。世の中の感覚とずれるので、間違えて来店する人がいる。せっかくだから休業日のカレンダーを作りましょうか、という話は当然出る。だが作らなかった。カレンダーは、誰かが毎月、次の月を埋めないと嘘をつきはじめる。人手の限られた店にその仕事を渡すと、半年で止まる。止まったカレンダーは、何も無いより悪い。だから文章のまま置くことにして、その代わり、玄関のお知らせ欄と、全ページの下の帯の、二か所に重ねて書いた。更新のいらない形で、目に入る回数だけを増やした。
数字を書かずに、数字への道筋を書く
いちばん判断に困ったのが、学校ごとの価格表だった。元のサイトには、対応している学校それぞれの価格表が、書類の形で並べて置いてあった。ただ、その中身は数年前のもので、最新版は手元にない。ここで選べる道は三つある。古い書類をそのまま新しいサイトに移す。空欄にして触れない。あるいは、別の書き方をする。一つ目は、間違った値段を出すことになるので論外だ。二つ目は、価格を知りたくて来た人を手ぶらで帰すことになる。選んだのは三つ目で、最新の価格表は店頭でご案内していること、電話でも概算をお伝えできること、この二つを書いた。数字は一つも書いていないが、数字にたどり着く道は書いてある。情報が古いときに、無いことにするのでも、古いまま出すのでもない、三つ目の書き方がある。
自分が作ったのは、意匠だけだ
そういう調子で、元のサイトを一枚ずつ読み直しては、書いてある事実を移し替えていった。取り扱っている銘柄の一覧も、季節ごとの催しも、健康食品の品目も、学校ごとに何を扱っているかも、こちらで足したものは一つもない。文言を今の言葉に直した箇所はあるが、条件と数字と固有の運用は、元のまま動かしていない。作り直しの仕事だと、つい、自分が店を作り変えたような気持ちになる。だが実際にこちらが作ったのは意匠だけで、中身は店が百年以上かけて積んだものだ。その線を引いておかないと、良かれと思って書き足した一行が、後から店を縛ることになる。
新しくするというのは、書き換えることではなくて、読みやすいところへ置き直すことなのだと思う。古いサイトは、読みにくい形をした、正しい記録だった。