数字を変えたら、ゲームのバランスが劇的に改善した話だ。
「諸経費」とは製品1個を作るたびにかかる、材料費以外のコストだ。電気代、消耗品、機械の使用コスト——これらをまとめた費目。このゲームでは「BASE_CONV_COST」というパラメータで管理している。最初の値は3.5万円/個だった。
問題の発覚
採用メカニズムを追加した後、シミュレーションで奇妙な結果が出た。採用して生産量を増やすほど、コストが急増して収益性が悪化する。原因を調べると構造的な問題があった。旧設計では「諸経費3.5万円/個」は「全ての製造コスト(労務費含む)」を内包する設計だった。その後、労務費を「30万円×従業員数」として別途計上するように変更したにもかかわらず、諸経費をそのままにしていた。つまり「労務費が二重計上」になっていた。
1.0万円への変更
「諸経費は純粋な諸経費(光熱費・機械消耗等)のみ」として再設計した。旧設計の3.5万円から大幅な引き下げだが、これが会計処理として正しい。この変更でゲームバランスが改善し、採用して生産を増やした企業の収益性が改善した。
数字の正確さがゲームの質を決める
一つのパラメータが二重計上になっていただけで、ゲームバランスが崩れていた。これは経営の現場でも同じことが起きる。コスト計算の誤りが、意思決定の誤りを生む。ゲームの中でも、数字の正確さが「正しい経営判断ができる環境」を作る。
変更前後のゲームバランスを数字で確認した
3.5万円から1.0万円への変更がゲームにどう影響したか。シミュレーションで確認した結果を記録しておく。
旧設定(3.5万円/個)での製造原価の内訳:
- 原材料費:8万円/個(変動)
- 諸経費(旧):3.5万円/個(実態は労務費+諸経費の複合)
- 合計:11.5万円/個
旧設定では、採用して2人→4人に増やしても、製造原価の諸経費部分が重複して計算されていた。4人採用した場合の実質的な労務費負担:製造原価内3.5万円×製造数+別途労務費30万円×4人。この二重計上が「採用するほど原価が上がる」という奇妙な現象を生んでいた。
新設定(1.0万円/個)での製造原価の内訳:
- 原材料費:8万円/個
- 諸経費(新:光熱費・消耗品等):1.0万円/個
- 労務費:30万円×従業員数(固定費として別計上)
- 合計:9万円/個 + 固定労務費
この変更で、製造原価の概念が会計として正確になった。ゲームの中で「変動費」と「固定費」の区別が自然に生まれた。生産量を増やせば変動費(原材料費・諸経費)は増えるが、労務費は固定。採用して人が増えれば固定費が上がるが、変動費は変わらない。この区別が分かると、「生産量を増やすことのメリットとリスク」の判断が深まる。
旧設定での「採用してもコストが重くなるだけ」という問題が解消し、「採用して生産能力を上げ、固定費を回収する」という本来の製造業の経営ロジックが再現できた。パラメータ一つの修正だが、ゲームの「会計的な正確さ」が大きく改善した。
*次回は「参加者が全員破産したテストゲームから学んだこと」*
変更前後のシミュレーション結果比較
3.5万円から1.0万円への変更が、ゲームバランスにどれだけ影響したかをシミュレーションで確認した。
旧設定(3.5万円/個)でのシミュレーション100ゲーム結果:全戦略の平均破産率71%。balanced戦略の破産率89%。最も破産が少ないno_investment戦略でも48%。「7割以上が破産するゲーム」は研修として機能しない。参加者が何をしても破産するなら、意思決定の学びが生まれない。
新設定(1.0万円/個)でのシミュレーション100ゲーム結果:全戦略の平均破産率38%。balanced戦略の破産率71%(依然高いが、理由が明確)。hire_production戦略の破産率12%。
破産率が71%から38%まで改善した。特にhire_production戦略の破産率が下がったことが重要だ。採用して生産量を増やす戦略は、旧設定では「採用コスト+生産コストの二重増加」で破産しやすかった。新設定では「採用→生産増→売上増→コスト回収」という本来の製造業ロジックが機能するようになった。
この変更一つで、「採用メカニズムが研修として機能するかどうか」が変わった。パラメータの正確さはゲームバランスと直結する。諸経費1.0万円という数字は「設備の電気代・消耗品・機械使用コストを合計した現実的な水準」として設定した。ゲーム内の架空の製品単価設定と整合的な数字であることを、シミュレーションで確認してから採用した。
*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*