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開発記録 / DX経営ゲーム制作記 / Vol.3 バランス調整の試行錯誤

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採用メカニズムを追加したらゲームが変わった

ゲームを公開して数ヶ月が経ったある日、参加者からフィードバックが来た。「生産能力の上限が最初から決まっているのに、増やす手段がない。経営判断の幅が狭い気がする」——的を射た指摘だった。

2026-06-02 公開

ゲームを公開して数ヶ月が経ったある日、参加者からフィードバックが来た。「生産能力の上限が最初から決まっているのに、増やす手段がない。経営判断の幅が狭い気がする」——的を射た指摘だった。


「人を採用する」という判断

「毎ターン、1人採用するかどうか選べる」——この機能を追加した。採用すると従業員が1人増え、生産能力が45単位増加する。初期は2人で90単位。最大5人で225単位。採用した従業員は解雇できない。毎ターン、採用した人数分の労務費(30万円×人数)が永続的にかかり続ける。


採用の「コスト」が体験になる

採用を「1人増やすだけ」と考えると、採用するのは当然に見える。しかし30万円×人数の労務費が毎ターン永続するコストの重みを、参加者は序盤に実感しにくい。1ターン目に採用した参加者が、後半ターンで「毎ターン120万円(4人×30万)の労務費が出続けていた」と気づく。「人を採用することの重さ」——経営者なら知っていることを、体験として届ける。


採用後のスライダー自動更新

技術的なこだわりがある。採用してターン計算が終わると、参加者画面の生産指示量スライダーの上限が自動的に更新される。トースト通知で「生産能力が135単位に更新されました」と表示される。この即座のフィードバックが、意思決定の実感を生む。採用メカニズムを追加したことで、ゲームの「序盤の判断」が一つ増えた。採用するか、しないか。いつ採用するか。ここに個性が出る。

採用コストの設計と「なぜ上限5人か」

採用メカニズムを設計するとき、最も時間をかけたのは「採用コストをどう設定するか」だった。

最初の設計では、採用時に一時的な「採用費用」(50万円)が発生し、その後毎ターン労務費として30万円が続く設計にした。シミュレーションを走らせると、序盤に採用した参加者の多くが採用費用で資金が底をつきそうになった。「採用するくらいなら借入を増やした方が良い」という判断が増え、採用メカニズムが活用されなかった。

採用費用をゼロにして、毎ターンの労務費のみに変更した。すると今度は「とりあえず全員採用して生産量を最大化する」戦略が出た。5ターンで5人採用すると労務費が毎ターン150万円になる。これで採用を躊躇わせる「重さ」が薄れた。

最終的な設計は、採用費用30万円(一時コスト)+毎ターン労務費30万円(永続コスト)の組み合わせだ。採用の瞬間のコストと、永続的なコストの両方を体感できる。

上限を5人にした理由

最初は上限なしで設計していた。しかし問題が出た。10人以上採用した企業が現れ、毎ターン300万円超の労務費が出続けた。「人件費の固定化」を体感するには良いが、ゲームバランスが崩れた。ゲームの時間軸(7ターン)で意味のある数として、「2人スタートで最大5人」という設定が経営判断の幅として適切だった。

5人の上限には別の意味もある。「人は無限には増やせない」という制約だ。現実の中小製造業でも、急に大量採用はできない。組織のキャパシティという制約をゲームの中で再現した。


*次回は「諸経費を3.5万から1.0万に変えた理由」*

「10人採用でテストしたら全員勝てなくなった」実験

採用の上限を設ける前に、「上限なし」でシミュレーションを走らせた。

dx_extreme戦略に「採用全力」を組み合わせたケースが出た。ターン1で2人採用、ターン2でさらに2人採用、ターン3でさらに2人採用。6人体制で生産能力が270単位、毎ターン労務費が180万円になった。

初期現金700万円から、ターン3終了時点で残り130万円。DX投資も並行して行っていたため資金が急速に枯渇した。ターン4で破産した。「採用しすぎた」という分かりやすい失敗例だ。

しかし問題は別にあった。「採用全力」が機能しないことは分かった。一方で「採用を全くしない」戦略のシミュレーションでは、生産能力が初期の90単位のまま7ターン終了し、1位を取れるケースが少なかった。「採用しすぎも、しなさすぎも良くない」という学びを生むには、「どのタイミングで何人採用するか」を参加者が考える余地が必要だった。

上限5人は「最大でも毎ターン150万円の固定費」という水準だ。7ターンのゲームで初期現金700万円のとき、固定費だけで1,050万円になる。売上収入なしには回収できない水準——この「採用の重さ」を体感させる数字として5人が適切だった。採用コストを50万円の一時費用に設定した試行では「採用するくらいなら借入で設備投資」という判断に誘導されすぎた。0円にすると「全員採用」が自明の選択になった。30万円という一時コストが「採用の重さを考える」ための絶妙な水準だった。

*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*