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開発記録 / DX経営ゲーム制作記 / Vol.2 ゲームエンジン設計

記事 10

140ゲームのシミュレーションでバランスを調整した

「このゲーム、DXに全振りすれば必ず勝てますよね」——テストプレイ後、参加者の一人にそう言われた。研修として失敗だ。ゲームの「最適解」が一つに収束してしまえば、多様な判断の面白さがなくなる。

2026-06-02 公開

「このゲーム、DXに全振りすれば必ず勝てますよね」——テストプレイ後、参加者の一人にそう言われた。研修として失敗だ。ゲームの「最適解」が一つに収束してしまえば、多様な判断の面白さがなくなる。


自動シミュレーターを作った

AIと一緒に、ゲームの自動シミュレーターを作った。8つの戦略を定義した。dx_extreme(DX全力投資)、no_investment(投資なし)、balanced(バランス投資)、finance_capex_hr(財務・設備・人材重視)、hire_production(採用・生産重視)、dx_focus(DX重点投資)、aggressive(借入活用)、kamikaze(意図的破産)。

これら8戦略の企業が入り混じった140ゲームを自動で走らせた。


結果が想定外だった

dx_extreme:1位率63%、破産率25%。no_investment:利益最高+175万、しかし1位率4%。balanced:安定だが破産率71%。

no_investmentの利益が最高になるのは意外だった。「投資しない分、利益は出る」ということだ。しかしランキングは自己資本順なので、投資で資産を積み上げた企業には勝てない。balancedの破産率が71%というのも想定外だった。バランスよく投資しようとするが、生産を多めに設定してしまい、在庫コストで資金が削られる。


「最適解が一つでない」設計が正解

dx_extreme戦略は1位率63%だが破産率も25%ある。DX変革が成功しなかった場合は投資しすぎで資金ショートしやすい。「DXへの投資は重要だが、リスク管理も必要」という現実の経営判断と一致する。ゲームに唯一の正解がないことが、考え続ける理由になる。

シミュレーション結果の詳細数値

140ゲームのシミュレーション結果を、もう少し詳しく記録しておく。

シミュレーションの設定は「8戦略×各20ゲーム弱」だが、戦略の組み合わせは毎回ランダムにしている。1ゲームに8社が参加する形ではなく、「4社でプレイしたとき、それぞれの戦略が選ばれた場合」をシミュレートした。ターン数は7ターン固定。

各戦略の詳細結果

| 戦略 | 1位率 | 破産率 | 平均最終自己資本 ||------|-------|--------|-----------------|| dx_extreme | 63% | 25% | +420万円 || dx_focus | 38% | 18% | +280万円 || balanced | 22% | 71% | -50万円 || aggressive | 31% | 33% | +195万円 || finance_capex_hr | 19% | 28% | +155万円 || hire_production | 15% | 12% | +120万円 || no_investment | 4% | 8% | +175万円 || kamikaze | 0% | 100% | -650万円 |

特に注目したデータがいくつかある。

balanced戦略の破産率71%:「バランスよくやる」という戦略が最も高い破産率を示した。理由を調べると、「バランスよく」は「全方面に少しずつ使う」という行動につながり、どれも中途半端になった。DXも進まない、生産効率も上がらない、採用もしない。コストだけが積み上がって収益が追いつかない。「バランス」は最悪の戦略になり得る。これは現実の経営でも同じことが言える。

no_investment戦略の利益率:投資しないので原価が低く、利益率は高い。しかし競争スコアが改善しないため、市場シェアが徐々に落ちる。利益があっても成長できない典型的な「縮小均衡」だ。参加者が「利益と競争力は別物だ」と実感する。

このデータをファシリテーターが持っていると、研修後の振り返りで「あなたの戦略は統計的にどの型に近かったか」という対話ができる。


*次回は「採用メカニズムを追加したらゲームが変わった」*

最初のバランスが崩れていた時の数値

140ゲームのシミュレーションに至る前の、最初のバランス崩壊を記録しておく。

初期パラメータでシミュレーションを走らせたとき、全8戦略の破産率が軒並み60%を超えた。「これはゲームが壊れている」と判断できるデータだった。

最大の原因はBASE_CONV_COST(諸経費)が3.5万円/個に設定されており、労務費との二重計上になっていたことだ。修正後の最初のシミュレーションで破産率が全体的に30%前後まで下がった。

もう一つの崩壊要因は「設備老朽化の速度」だった。初期設定では3ターン設備投資を怠ると生産能力が初期値の40%まで落ちた。これは急激すぎた。設備への投資が難しい資金状況の企業が、4〜5ターン目に連鎖破産する原因になっていた。老朽化速度を遅くし(4ターン放置で60%まで低下)、かつ「老朽化警告」を画面に表示する設計に変えた。

この初期崩壊状態のデータがあったからこそ、修正後のバランスが「改善した」と客観的に判断できた。「何と比較するか」を持つことが、調整作業の精度を上げる。

シミュレーションはAIに「Pythonで自動実行スクリプトを作ってほしい」と依頼して実装した。8戦略を定義したクラスと、ゲームエンジンを呼び出すラッパーを組み合わせたスクリプトだ。140ゲームを走らせるのに約3分かかる。パラメータを変えるたびに3分待って結果を確認するという地道な作業を、2週間繰り返した。

*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*