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開発記録 / DX経営ゲーム制作記 / Vol.2 ゲームエンジン設計

記事 09

イベントシステムはこうして生まれた

経営には「予期しない出来事」がある。好景気が来ることもあれば、原材料が高騰することもある。ゲームにこの「不確実性」を組み込むために、イベントシステムを設計した。

2026-06-02 公開

経営には「予期しない出来事」がある。好景気が来ることもあれば、原材料が高騰することもある。ゲームにこの「不確実性」を組み込むために、イベントシステムを設計した。


3種類のイベント

イベントを3つに分類した。

共通イベント(毎ターン1つ、全社に影響):景気回復、景気減速、原材料高騰など15種類。ターン計算時にランダムで1つ発動する。

条件連動イベント(条件を満たした企業に自動発動):在庫が多い企業には「高在庫保管費率」が発動。設備投資をサボると「設備老朽化」が発動。DX投資が人材育成を大幅に上回ると「ツール定着不全」が発動する。

特殊イベント(確率で発動):「サプライチェーン攻撃」——DXのデータ基盤が弱い企業が攻撃を受け、現金とブランドにダメージを受ける。


条件連動イベントが研修の深みを作る

条件連動イベントは「自分の判断の結果」だ。在庫を抱えすぎた企業に「高在庫保管費率」が発動する。このとき参加者は「自分がなぜこうなったか」を理解できる。在庫を減らせばよかった。この気づきが学びになる。


サプライチェーン攻撃がゲームに緊張感を生む

「なぜL1(IT基盤整備)から始めるべきか」——これを言葉で説明しても腑に落ちにくい。しかしゲームの中でデータ基盤が弱い企業がサイバー攻撃を受けた体験があれば、「まず基盤を整えるべきだった」という気づきが生まれる。イベントは「驚き」のためではなく、「気づき」のために設計した。

没になったイベント案と条件設計の難しさ

現在のイベントシステムには15種類の共通イベントと数種類の条件連動イベントが入っている。最終的に採用されなかったイベント案も、同じくらいの数存在する。

没イベント1:「キーマン退職」

会社のDX推進担当者が退職して、DX蓄積値が20%減少するというイベントだ。現実のDX推進でよく起きる問題を再現しようとした。しかし問題があった。「退職」という言葉が参加者に不快感を与える可能性があった。また、参加者がコントロールできない外部要因でDX蓄積が減るのは「不公平感」を生む。イベント発動条件を設計できなかったことも理由の一つだ。「どんな状態の会社でキーマン退職が起きやすいか」を数値化できなかった。

没イベント2:「規制強化」

特定の判断をし続けた企業に、規制対応コストが発生するイベントだ。「環境規制でコスト増」「データ保護法で対応費用が発生」という現実的なシナリオを想定した。しかし研修の文脈で「規制」を扱うと、参加者の業種によって受け取り方が大きく変わる。製造業研修として統一感を持たせるのが難しかった。

条件設計の難しさ:条件連動イベントの設計で最も苦労したのは「閾値の設定」だ。「在庫が多い企業に高在庫保管費率が発動」とは言うが、「何個以上が多い」のか。初期は30個としていた。しかし3社ゲームか5社ゲームかで「普通の在庫量」が変わる。最終的に「現在の生産能力の2倍以上の在庫」という相対的な条件にした。この変更で、参加人数に関わらずイベントが適切なタイミングで発動するようになった。

イベントは「研修の予定調和を崩すためのもの」だ。しかし「壊すだけのイベント」は研修を台無しにする。「その体験から何を学ぶか」を設計してからイベントを作る、という順序が正しかった。


*次回は「140ゲームのシミュレーションでバランスを調整した」*

「工場火災で在庫全損」イベントが廃止になった理由

イベント設計の初期案に「工場火災」があった。「ランダムで1社の製造設備が損傷し、在庫が全て消滅、生産能力が次の3ターン50%に低下する」という極端なイベントだ。

廃止した理由は明確だった。「コントロール不能な運の要素」が強すぎた。イベントが発動した企業は、何の判断ミスもしていないのに致命的なダメージを受ける。研修として「リスクに備えていれば被害が少ない」という設計はできるが、「火災」という唐突な事象では「事前にどう備えるか」の学習設計が難しかった。

さらに、「工場火災」という現実の事故をゲームのイベントにすることへの心理的な抵抗があった。研修参加者の中に実際の事故経験者がいる可能性を考えると、不快感を与えるリスクが高い。

最終的に採用したのは「設備老朽化」だった。設備投資をサボった企業に発動し、生産能力が段階的に低下する。「コントロールできる要因に対するコントロールできる結果」という設計にした。

イベントの発動確率の調整も、AIとシミュレーションを繰り返した。景気回復イベントの発動確率を当初15%に設定していたが、140ゲームで発動しないゲームが6割を超えた。20%に上げると今度は「毎ゲーム必ず発動する」ゲームが増えすぎた。最終的に18%で落ち着かせた。「ある時もある、ない時もある」という不確実性を保ちながら、研修期間中に一度は体験できる水準だ。

*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*