最初は線形だった。「競争スコアが2倍の企業は、シェアも2倍取れる」——これが最初のシェア配分ロジックだ。しかし、あるテストプレイで問題が発覚した。
「DXに出遅れても挽回できてしまう」問題
DX変革に成功した企業のスコアが通常の3倍になった。線形配分なら約43%のシェアを取れる計算だ。
参加者からこんな声が上がった。「DXに成功した会社が43%取っても、まだ残り3社で57%ある。十分戦える」
数字として正しい。しかし研修として問題がある。現実のビジネスでは、DX変革に成功した企業は競合を駆逐する。その体験がゲームで生まれていなかった。
「二乗」を試した理由
AIが提案した。「スコアの二乗の比率で配分することを検討してみてください。スコアの優位性が増幅され、競争の差がより劇的に現れます」
具体的な数値で示してもらった。4社でスコアが 6, 1, 1, 1 の場合——線形配分:67%, 11%, 11%, 11%。二乗配分:90%, 3%, 3%, 3%。
実際のゲームデータで確認すると、DX変革後の企業が85%以上のシェアを取っていた。
「市場が変わる瞬間」を作れた
この設計を採用した瞬間、ゲームの表情が変わった。DX変革に成功した企業が出ると、他社の売上が急落し、参加者が「え、なんで急に売れなくなったの」と困惑する。
「DXに出遅れると市場を失う」という言葉より、画面で数字が急落する体験の方が、記憶に残る。二乗配分はゲームとして過激かもしれないが、研修として正しい。現実のビジネスも、DXの勝者が市場を総取りする傾向がある。
線形vs二乗:実際のシミュレーション結果で比較した
「二乗にしよう」と決める前に、実際のシミュレーションで両方を走らせた。数字として残っているので共有したい。
4社ゲームで、1社がDX変革に成功してスコアが3倍になったケースを想定する。各社のスコアを 6, 2, 1, 1 とする(DX変革成功企業が6、残りが2・1・1)。
線形配分(スコアの比率):
- DX変革企業:6/(6+2+1+1) = 60%
- 2位:2/10 = 20%
- 3・4位:各10%
二乗配分(スコアの二乗の比率):
- 二乗値:36, 4, 1, 1(合計42)
- DX変革企業:36/42 = 85.7%
- 2位:4/42 = 9.5%
- 3・4位:各2.4%
この差は大きい。線形の場合、2位の企業はDX変革企業の1/3のシェアを持てる。二乗の場合、2位はDX変革企業の1/9しか取れない。
研修として判断基準は「どちらが現実のDX競争に近いか」だ。IT産業では「DXに成功した企業が市場を総取りする」事例が多い。製造業でも、生産効率が3倍になれば価格競争力が劇的に上がる。二乗の方が現実に近い。
もう一つ確認した。線形の場合、「DXに遅れた企業が低価格戦略で戦える余地」がある。20%のシェアがあれば、利益は出なくても生き残れる。二乗の場合、2.4%のシェアでは固定費を賄えず、遅かれ早かれ破産する。「DXに出遅れると市場から退出せざるを得なくなる」という研修メッセージを伝えるには、二乗の方が適している。
この判断に1時間もかからなかった。シミュレーション結果を数字で見れば、答えは明らかだった。
*次回は「DX変革ボーナス×3.0はなぜ3.0なのか」*
線形配分でシェアが「収束」した具体的なシミュレーション
線形配分を採用していた初期、140ゲームのシミュレーションで気になるパターンが現れた。「1位と2位のシェア差が縮まる」現象だ。
具体的なデータを示す。ターン5終了時点で、DX変革済み企業のスコアが他社の2.8倍になっているケースを抽出した。線形配分では、その企業のシェアが52〜58%の範囲に収まっていた。残り3社が合計42〜48%を分け合う形だ。
この「42〜48%」が研修として問題だった。3社合計で半分近いシェアがあれば、価格を下げることで収益を確保できる。DX変革企業が優位に立っているのに「まだ戦える」という感覚を参加者に与えてしまう。
二乗配分に変えたとき、同じスコア差(2.8倍)でシェアがどう変わったか。DX変革企業:85.7%。残り3社の合計:14.3%。14%では固定費が賄えず、2〜3ターン後に破産する確率が高くなる。「出遅れると市場を失う」という体感が、数字の上で実現した。
140ゲームの比較では、線形配分と二乗配分で「ゲームが7ターン全員生き残る確率」が大きく変わった。線形では63%のゲームで全社が最終ターンまで生き残った。二乗では42%だった。「競争が激しくなって脱落者が出る」という設計としては、二乗の方が現実に近かった。
*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*