数字には根拠が必要だ。DX変革に成功した企業の競争スコアが3倍になる——この3.0という数字は、1.5から始まり、2.0を試し、2.5を経て、3.0に落ち着いた。
1.5では「変わり映えしない」
最初のバージョンは×1.5だった。シミュレーションを走らせると、DX変革を達成した企業が「やや有利」になる程度だった。研修として届けたいメッセージは「DX変革に成功した企業が圧倒的優位に立つ」というものだ。1.5倍では、このメッセージが届かない。
2.0でも「まだ足りない」
×2.0に上げた。しかし別の問題が出た。「2.0倍になっても、他社が低価格戦略で対抗できてしまう」という現象だ。スコアが2倍になっても、価格を思い切り下げれば補える。DX変革の意味が薄れる。
3.0で「ゲームの空気が変わった」
×3.0に設定したとき、ゲームの挙動が変わった。140ゲームのシミュレーションでは、dx_extreme戦略の1位率が63%に達した。no_investment戦略は1位率4%。この差は誰の目にも明らかだ。
実際のゲームでも「DX変革成功後の1ターン」で劇的な変化が起きた。他社の売上が急落し、参加者が声を上げる。「これが研修だ」と確信した。
3.0という数字は「大きすぎず、小さすぎず、ゲームとして体験できる最適値」として落ち着いた。もう一つ重要な設計がある。DX変革の効果は「次のターンから」適用される。「今すぐ効果が出ない」という現実をゲームの中でも再現した。
×2.0と×4.0で試したときに起きた問題
×3.0に落ち着くまでに、×2.0と×4.0でも本格的なシミュレーションを走らせた。それぞれで発生した問題を記録しておく。
×2.0のとき:
シミュレーション結果として、dx_extreme戦略の1位率は42%だった(×3.0では63%)。dx_extremeが「有力な戦略の一つ」にはなるが、「圧倒的に有利な戦略」にはならない。これ自体は悪くない。しかし問題は別にあった。
「価格を徹底的に下げる」no_investment戦略の1位率が21%に上がった。投資を一切しない代わりに、生産コストが低く保たれるため、低価格で大量販売ができる。「DXに投資しなくても、価格競争で勝てる」という体験が生まれてしまった。研修として「DX投資は重要だ」を伝えたいのに、「投資しない方が勝てる」という逆のメッセージを与えるリスクがあった。
×4.0のとき:
今度は逆の問題が起きた。二乗配分と組み合わさると、DX変革成功企業のシェアが97%以上になるケースが頻発した。残り3社は合計3%しかシェアを取れない。これでは競争として成立しない。3社が数ターンで全員破産し、研修が早期に終わってしまう。「全員破産して学びが生まれない」という問題が起きた。
また、×4.0ではDX変革が「博打」の性格を帯びた。変革成功で97%取れるなら、リスクを無視してでも全振りしたくなる。「DX投資はリスク管理も必要」という学びが薄まった。
×3.0は「DX変革の効果が劇的に現れる」と「競争として最後まで成立する」の両方を満たすバランス点だった。この数字は計算で求まるものではなく、シミュレーションと参加者の反応から探り当てたものだ。
*次回は「9ステップのターン計算エンジンを設計した話」*
×2.0テスト時の具体的なゲームデータ
×2.0でシミュレーションを走らせたとき、印象的なデータが残っている。dx_extreme戦略の1位率は42%だった。
しかし問題の本質は別にあった。no_investment戦略(投資を一切しない)の1位率が21%まで上がった。「DXに投資せず、低コストで生産して価格競争に勝つ」戦略が有効になってしまっていた。
具体的なゲーム展開を記録している。4社ゲームで、1社がdx_extreme、1社がno_investment、残り2社がbalanced戦略を取った場合。ターン5でdx_extreme企業がDX変革に成功し、スコアが2倍になった。しかしno_investment企業は低コストで価格を下げており、シェアが25%から31%に上がっていた。dx_extreme企業が37%、no_investment企業が31%という拮抗した状況が最終ターンまで続いた。
これが研修として問題だ。参加者が「DXに投資しなくても勝てる」という体験をしてしまう。×3.0になってこの問題が解消した。
×4.0のテストでは逆の問題が出た。DX変革成功後のシェアが二乗計算と重なり、97%超を取るケースが頻発した。残り3社が数ターンで連鎖破産し、研修が予定より2〜3ターン早く終わってしまう。ゲームとして成立する範囲と、研修として届けたいメッセージのバランスが×3.0で最も機能した。
*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*