記事を書いた。次に考えたのは「どこで売るか」だ。
noteは当然選択肢に入る。日本のコンテンツ販売プラットフォームとして最も普及していて、登録すればすぐに販売できる。手数料は売上の10〜30%。集客は自分でやる必要があるが、仕組みとしては整っている。
それでも使わないことにした。
「プラットフォーム依存」を避けたかった
最大の理由は、プラットフォームへの依存リスクだ。
noteの規約が変わる。手数料が上がる。アルゴリズムが変わって表示されにくくなる。最悪の場合、アカウントが停止される。これらは自分ではコントロールできないリスクだ。
「1人CTO開発記録」は、私がAIと協働してシステムを作り続ける記録だ。そのシリーズの第2弾が「1cto.jp制作記」——このサイト自体をどう作ったかの記録だ。「コンテンツを売るために外部プラットフォームに依存する」という選択は、このシリーズのテーマと矛盾する。
作れるなら作る。それが私のスタンスだ。
技術的な判断
「自分で作る」と決めたとき、技術スタックを選ぶ必要があった。
バックエンド:FastAPI(Python)。DX経営ゲームと同じスタックで、すでに慣れている。認証・課金・記事管理の3機能を実装するだけなので、過剰な設計は不要だ。
データベース:PostgreSQL。同じくDX経営ゲームと同じEC2インスタンスに相乗りさせた。月々のサーバー費用を増やさずに済む。
決済:Stripe。クレジットカード決済を自前で実装するのは現実的ではない。Stripeは開発者向けのAPIが整っていて、テスト環境と本番環境を分けやすい。Webhook(購入完了イベント)の処理も実装済みのパターンがある。
フロントエンド:静的HTML。Reactは使わない。コンテンツ販売サイトに必要な動的機能はログイン状態の管理と記事一覧の描画だけだ。JavaScriptのフレームワークを使うほどではない。
「作れる人間」と「作る選択をした人間」は違う
技術がある人間が全員、自分でシステムを作るわけではない。「作れる」と「作る」の間には意思決定がある。
私が「作る」を選んだのは、次の理由からだ。
継続的な学習になる:決済システムの実装・Webhookの処理・JWT認証——これらは他のプロジェクトでも使える知識だ。noteで販売していたら得られなかった。
このシリーズ自体がコンテンツになる:「1cto.jp制作記」として、このサイトを作った経緯を記事にして販売できる。作る過程が商品になる。
データが手元にある:誰がいつ何を購入したか、どの記事が最後まで読まれたか——これらのデータを自分で持つことができる。プラットフォームにデータを握られない。
実際にかかった時間
設計から本番稼働まで、実質的な作業時間は4時間程度だった。
最初の1時間でDBスキーマとAPIの全ルートを設計した。次の2時間でFastAPIのコードを実装し、フロントのHTMLを書いた。最後の1時間でEC2にデプロイし、Stripeの設定をして動作確認した。
これが数年前なら3日はかかっていた。AIと協働することで、ゼロから動くシステムを作るコストが劇的に下がった。
「作れる人間」であることの価値が、今後さらに高まると確信した瞬間だった。
*次回は「FastAPI・Stripe・PostgreSQLで認証と決済を1日で実装した話」*
「作れる人間」と「作ることを選んだ人間」の差
販売サイトを自分で作ると決めたとき、最初に感じたのは「本当に作る必要があるか」という問いだった。
noteやBASEを使えば今日中に販売を開始できる。自分で作れば1日かかる。この差をどう考えるか。
判断の基準は「このサイト自体がコンテンツになるか」だ。「AIと一緒に1cto.jpを作った経緯」は、記事として書ける。記事を書くためには、自分で作る体験が必要だ。noteで販売していたら「noteのページを作りました」という話にしかならない。
実際に作る過程で学んだことが3つある。JWT認証の実装(ログイン状態の管理)、Stripe Webhookの処理(購入完了イベントの受信とDBへの記録)、EC2上でのサービスの分離(dxgame.jpと1cto.jpを同じEC2の別ポートで動かす設定)。これらは「作らなければ学ばなかった」知識だ。
「作れる人間」であることに価値がある時代だ。しかし「作れる」と「作る選択をした」の間にある意思決定こそが、実際の価値を生む。技術を使う判断は、技術そのものと同じくらい重要だと実感した開発だった。
1cto.jpを作ってから気づいたことがある。「コンテンツを販売する仕組みを自分で持つ」とは、「プラットフォームのアルゴリズムに左右されない販売チャネルを持つ」ことだ。noteで記事が埋もれるリスク、手数料が変わるリスク、アカウントが停止されるリスク——これらを全て自分でコントロールできる。データが手元にある。誰がいつ何を購入したかが分かる。次のコンテンツ開発の判断材料が自分の手の中にある。
*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*