引っ越しを始めるとき、自分に一つ縛りをかけた。使う人が触る画面は、一つも変えない。タブレットも、管理画面も、家族に届くお知らせも、これまで通り。変えるのは、その裏でデータを出し入れしている部分だけにする。
理由は単純で、動いているものを、使い勝手ごと作り直すのは危ないからだ。教室は毎日動いている。引っ越しのために数日止める、というわけにはいかない。
画面と裏側の「約束事」を固定する
画面と裏側は、決まった形のやり取りで会話している。画面が「今日の生徒を出して」と頼むと、裏側が名前の一覧を決まった形で返す。この、頼み方と返し方の形さえ変えなければ、返している中身が表計算だろうとデータベースだろうと、画面は気づかない。
だから新しい裏側は、古い裏側とまったく同じ形で受け答えするように作った。頼み方の名前も、返す一覧の形も、一字一句そろえる。画面から見れば、話し相手が入れ替わったことすら分からない。
契約さえ守れば、中は自由に作れる
この「やり取りの形」を、私は契約のようなものだと思っている。契約の文面さえ守れば、その裏で誰がどう働いているかは問われない。
古い裏側は、遠いクラウドまで取りに行っていた。新しい裏側は、すぐ隣のデータベースから取ってくる。働き方はまるで違う。けれど返すものの形が同じだから、画面はそのまま動く。中を全部作り替えても、外の約束を破らなければ、世界は壊れない。
この考え方に、何度も助けられてきた。表と裏の境目に、はっきりした約束を一本引いておく。そうすれば、片側だけを安心して作り替えられる。境目が曖昧なまま全部がつながっていると、一つ触るたびに、どこに響くか分からず怖くなる。良い約束は、直す勇気をくれる。
つなぎ先を、一箇所にそろえる
もう一つ気をつけたのは、画面が話しかける窓口を、一つにそろえることだった。あちこちに散らばった問い合わせ先を、同じ入口に集める。
窓口が一つなら、裏側を差し替えるときも、そこだけを見ていればいい。どの画面が、どこに話しかけているかを、全部把握できる。引っ越しの安全は、こういう地味な整理から生まれる。
変えない勇気が、事故を防ぐ
新しくするとき、つい画面も一緒に良くしたくなる。ここも直そう、ついでにあれも、と手が伸びる。その誘惑を、今回はぐっと抑えた。
一度に変えることが多いほど、何かが起きたとき、原因が分からなくなる。裏側だけを替えて、画面は変えない。そうすれば、もし不具合が出ても、疑う場所は裏側だけだ。変えない勇気が、いざというときの調べやすさになる。次の回は、この引っ越しでいちばん気を遣った、パスワードを引き継ぐ話を書く。