録音を文字にするところまでは、すぐ動いた。問題は、その文字を、注文として使える形に直すところだった。
電話の会話は、伝票のようには進まない。「あれをいつものぶん」「来週の水曜に」「小売のほうで」。人どうしなら通じる言い方が、そのまま文字になって出てくる。これを、品名・数量・納品日・取引先という、はっきりした欄に割り付けなければ、注文にならない。
聞き取りは、そのままでは注文にならない
まず突き当たったのが、言葉のゆれだった。
同じ商品でも、電話では独特の言い方をする。業界や土地でしか通じない呼び名、略した言い方、なまり。文字にすると、正式な商品名とは違う綴りで出てくる。人が聞けば同じものだと分かる。けれど、そのまま欄に入れると、登録された商品名と一致しない。
聞き取れたことと、注文になったことは、別だった。間に、言葉を整える一段が要る。そこをAIに任せることにした。
現場の言い回しを、正式な名前に寄せる
AIには、ただ割り付けるだけでなく、現場の言い回しを正式な名前に寄せる仕事も持たせた。
聞き間違いやすい呼び名を、登録済みの商品名に直す。「来週の水曜」のような相対的な言い方を、実際の日付に置き換える。小売の取引か、卸の取引か、会話の流れから区別する。人が頭の中で自然にやっている変換を、AIに肩代わりさせる。
このとき効いたのは、業界の言葉をAIに教えておくことだった。どういう呼び名が、どの商品を指すのか。どんな言い回しが出てくるのか。あらかじめ手がかりを渡しておくと、寄せ方の精度が上がった。汎用の賢さだけでは、その現場の言葉までは分からない。
決まった欄に、割り付ける
読み取った結果は、決まった欄の集まりとして受け取った。
品名はどれか、数量はいくつか、納品日はいつか、取引の種別は何か。この形で返すように、AIに枠を渡す。自由な文章のままでは、その先の出荷の処理に乗せられない。会話という定まらないものを、定まった形に落とす。ここが、聞き取りと注文を隔てる境目だった。
欄に収まっているか、日付として意味が通るか、といった検査も加えた。AIの読み取りを、そのまま信じるのではなく、形をあらためてから注文の下書きにする。
現場の言葉を、仕組みに教え込む
この作業を通して、腑に落ちたことがある。現場の自動化でいちばん手がかかるのは、汎用の技術ではなく、その現場だけの言葉を教え込むところだ。
文字にする技術も、意味を読み取る技術も、既にある。難しいのは、「あれ」が何を指し、「いつもの」がどの取引先で、なまった一言がどの商品なのかを、仕組みに分からせることだ。そこは、その現場に入り込まないと集められない。
道具は借りてくればいい。けれど、道具に何を教えるかは、現場ごとに違う。次の回は、そうして作った注文を、なぜ人が最後に確かめる形にしたかを書く。