一度、広告で手ひどく外した。だから今度は、「これはいい痛みだ」と思い込む前に、公的な数字を、机の上に並べてみた。感覚のいい話ほど、数字で裏を取る。その順番を、守ることにした。
痛みの母数は、思ったより大きかった
まず、痛みそのものが、どれくらいの広さを持つのかを調べた。
中小企業白書によれば、経営者の年齢は、六十歳以上が過半数を占める。二〇二五年までに、平均引退年齢を超える経営者は、およそ二百四十五万人にのぼる。後継者が決まっていない中小企業は、約百二十七万社。日本企業の、三分の一にあたる。帝国データバンクの調査では、正社員が「不足している」と感じる企業は五割を超え、記録を取り始めて以来、最も高い水準になっていた。業務知識の属人化を、人材の課題に挙げる企業も、四社に一社ある。
数字を並べて、背筋が伸びた。「あの人が辞めたら、誰も分からない」は、一部の会社の困りごとではない。日本の中小企業の、構造そのものだった。痛みの実在と、その広さは、疑う余地がなかった。
答えを持っていない層が、いちばん多い
次に、その痛みを抱えた会社が、解決策をどう探しているのかを見た。
小規模な事業者が、デジタル化やDXに取り組むときの、いちばんの困りごと。それは、費用でも、人手でもなく、「何から始めてよいか分からない」だった。従業員二十人以下の会社では、これが最も多い答えになっていた。痛みはある。だが、その解き方を、自分では持っていない。
これは、私にとって、良い知らせだった。私が作ったのは、もともと「何から始めるか」を示す診断だ。答えを持っていない層が、いちばん多い。その相手に、まさに私の道具は向いている。ここは、噛み合っていた。
でも、上と下に、競合の壁があった
ただし、都合のいい数字だけを見て、また外すわけにはいかない。競合を、上と下で調べた。
下の壁は、安いツールだ。マニュアルを作るツールや、社内の知識を貯めるツールが、すでに数多くある。それらは「属人化を解消します」と、安い月額で謳っている。小さな会社の社長にとって、属人化の答えは、まずこれになる。ここに埋もれれば、私の話は、割高な同じ物にしか見えない。
上の壁は、大きなAIコンサルだ。生成AIで技能を引き継ぐ、という取り組みは、すでに注目されている。だが、その事例は、名の知れた製造業の、大手や中堅ばかりだった。小さな会社は、相手にされていない。
私の席は、その隙間にあった。大手のコンサルが降りてこない、小規模な会社。そこで、安いマニュアルツールでは掴めない「判断」の部分を、AIで、身の丈に落とす。上でも下でもない、その隙間を、はっきり狙う。ここでしか、勝てない。
そして、これも検索で刈る市場ではなかった
最後に、いちばん大事な確認をした。この需要は、どうやって届けるのか。
痛みは、これだけ巨大だ。だが、その痛みを検索窓に打ち込む人は、やはり薄かった。「事業承継」で調べると、話は会社の売買のほうへ逸れていく。「技能継承」で調べると、大手製造業向けの記事に、埋もれてしまう。買う人は、この痛みを、検索できる言葉にしていない。広告で学んだことが、そのまま、ここでも当てはまった。
だとすれば、答えは一つだ。検索で捕まえるのではなく、目の前で、気づいてもらう。支援機関のセミナー。創業塾。これまで書いてきた、この記録。人が集まっている、温かい場所で、「あの人が辞めたら」という痛みに、そっと火を灯す。そして、無料の診断へ、手を引く。冷たい検索広告で刈る市場ではなく、温かい場所で気づかせる市場だった。
広告で分かったのは、良い商品があっても、間違った場所に置けば、一件も売れない、ということだった。痛みは本物で、母数は巨大で、私の席もある。あとは、届け方だ。次は、この検証を前提に、入口の言葉と、届ける場所を、実際に作り直していく。その記録を、また、ここに書く。