第1部のあの夜から、ずいぶん長く書いてきた。最後に、ここまでの全部を、一度ふり返っておきたい。
あの夜、私は電卓を叩いて、青ざめていた。契約が増えるほど、自分の時間が、まっすぐ増えていく。順調に見えた事業は、実は崖に向かっていた。あそこから、どうやって向きを変えたのか。その記録が、この旗艦シリーズだった。
あの夜から、何を変えたか
やってきたことを、並べてみる。
作業ではなく、判断を自動化した。人のレビューを、標準ではなく例外にした。無料相談を、主線から外した。入口を一つの業務に絞り、適合判定で、売れても危ない相手は止めた。AIとロジックの仕事を分け、根拠を残し、版を固定した。壊れない、漏れない、止められる守りを入れ、例外は一つのキューに集めた。どれも、機能を足す話というより、自分の判断を、製品の側に渡していく話だった。
増やす、という解き方を、選ばなかった
途中、何度も、人を雇えば早い、と思う場面があった。
手が足りない。時間が足りない。普通なら、ここで増員する。でも、それを選ばなかった。増やせば、また比例に戻る。一人ぶんの時間が、二人ぶんになるだけで、構造は変わらない。だから、手が足りないときこそ、製品を直した。人ではなく、仕組みで解く。増やさない、と決めることが、設計の背骨になった。
自動化は、放置ではない
誤解されたくないことが、一つある。
無人で回す、というのは、放っておく、という意味ではない。むしろ逆だ。誤って売らないか。誤った成果物を出さないか。設定の事故はないか。情報は漏れていないか。解約の不満は溜まっていないか。これらを早く見つけて、自動で止められる仕組みまで含めて、初めて無人化は成り立つ。放置と無人化は、正反対のものだ。
一人だからこそ、できたこと
増やさないと決めたことには、もう一つ、別の意味もあった。
一人だから、全部を一つの頭で設計できた。判断のルールも、守りの作りも、経営の数字も、ばらばらの担当に分かれていない。だから、矛盾なく、端から端までつなげられた。人を増やせば速くなる場面もある。でも、増やさないからこそ保てる一貫性が、この事業には合っていた。弱みだと思っていた「一人」が、いつのまにか、設計の強みになっていた。
いちばん信用しているのは、自分の時間
今でも、私がいちばん信用している指標は、売上ではない。
自分の時間の、増え方だ。契約が増えても、それがあまり増えないなら、判断が製品に乗っている。増え始めたら、また崖が近い。だから、時々、あの夜のように、電卓を叩く。派手ではないが、一人でやる以上、この一本の線を見失うと、また同じ崖に向かう。
一人でやる強さは、機能の数ではない。増やさずに回せる設計にある。たくさんの人で大きくする道もある。でも私が選んだのは、増やさずに、一人のまま、全国へ届ける道だった。その設計の記録を、ここまで書いてきた。
この旗艦シリーズは、ここで一区切りとする。仕組みの細かい実装は、別のシリーズ「現場の実装ノート」で、一話ずつ書いていくつもりだ。
長い記録に、お付き合いいただき、ありがとうございました。
シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦