ゲームの途中で、参加者が立ち止まることがある。「DX投資をいくら入れればいいのか、全然わからない」。ファシリテーターが1対1でアドバイスする時間は限られている。「AIを参加者の相談相手にしよう」と思った。
AI相談タブの仕様
参加者画面に「AI相談」タブを追加した。テキストエリアに質問を入力して送信すると、AIが回答を返す。回答は自社の現在の状況(現金・在庫・DX蓄積値・競争スコア等)をコンテキストとして持っている。「あなたの会社の現在の状況」を踏まえた、個別のアドバイスが返ってくる。バックエンドはOpenAIのGPT-4o-miniを使用した。
「自社の状況を踏まえた相談」の価値
「現金が400万円、DX蓄積が低い状態でターン4が始まります。どんな戦略を取るべきですか」と問うと、「現在の資金状況から大型DX投資は難しい。まずIT基盤(L1)に少額でも継続投資を始めながら、生産効率を上げて資金を確保することを推奨します」という具体的な回答が返ってくる。
研修の中での使われ方
この機能の効果は予想以上だった。AIに相談した参加者が「なるほど」と言いながら翌ターンの入力を変えた。「AIに聞いてみたけど、私はあえてその逆をやってみる」という参加者が出た。これが最も良い反応だ。AIの提案を批判的に検討し、自分の判断を持つ——これが経営の姿勢だ。AIが先生ではなく「壁打ちの相手」になったとき、研修の質が上がった。
AI相談の具体的なやりとり例
AI相談タブで実際にどんなやりとりが起きたか。印象的なものを記録しておく(参加者の許可を得て掲載)。
事例1:「DXにいくら入れるべきか分からない」
参加者の質問:「現金が380万円あります。今ターンDXにいくら入れるべきですか?」
AIの回答(要約):「現在のDX蓄積値(L2レベル3段階中2段階目)から推計すると、変革まであと1〜2ターンの投資が必要です。ただし今ターンの固定費約80万円・予想売上約150万円を考慮すると、DX投資に使えるのは最大100〜120万円です。それ以上投資すると翌ターンの資金が不安定になるリスクがあります」
参加者の行動:100万円をDX投資に設定。翌ターンでDX変革成功。「AIが言ってた通りだった」という感想が出た。
事例2:「AIの逆を行く」という使い方
参加者がAIに「今は現金が少ないので採用を控えるべきですか」と質問したところ、AIは「はい、控えることを推奨します」と返した。その参加者はあえて採用を実行した。理由を聞くと「他の会社がAIの言う通りに動くなら、自分は逆の戦略で差別化したかった」。
最終的にその判断は裏目に出たが、「なぜ失敗したか」の振り返りが非常に濃密だった。「AIの提案に反した結果、こうなった」という体験は、AIを使った意思決定の限界と価値を同時に学ぶ機会になった。
反省点もある:
AI相談の回答が「丁寧すぎる」という問題が出た。参加者が長い回答を読み切る前にターン入力の時間が来てしまう。回答の長さを「3行以内で要点のみ」に制限する改善を加えた。「考える補助」であって「答えを与えるもの」ではない、という設計意図を機能として反映した。
*次回は「チーム編を1週間で追加できた理由」*
AI相談を「逆張り」に使った参加者の振り返り
AI相談タブの使われ方で最も印象的だったのは「AIの逆を意図的にやる」という使い方だった。
ある参加者がAIに「現金が少ないので採用を控えるべきか」と質問した。AIは「はい、資金状況から採用は推奨しません」と返した。その参加者はあえて採用を実行した。「AIが反対するなら差別化できる」という判断だ。
結果はうまくいかなかった。採用コストで資金が減り、翌ターンで資金ショート寸前になった。しかし振り返りでその参加者が言った言葉が印象的だった。「AIが言う通りにしていたら失敗しなかったかもしれない。でも、なぜAIが正しかったのかを自分で考えなかった。次は『なぜそう判断するか』を先にAIに聞いてから決める」。
この発言が研修の質を高めた。AIの提案を鵜呑みにすることも、反対することも、どちらも「AIとの向き合い方」として学びになる。重要なのは「なぜそう判断するか」という思考プロセスだ。
AI相談機能の設計で最後まで迷ったのは「回答の長さ」だ。最初は詳細な説明を含む回答を返していたが、参加者が長い回答を読む前にターン入力の時間が来てしまった。「3行以内で要点のみ」に制限するプロンプトを追加した。AIが「先生として全て教える」役割ではなく「考えるきっかけを3行で渡す」役割になったことで、研修としての機能が上がった。
*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*