管理者画面に「緊急融資」ボタンがある。破産した会社に対して、政府救済として融資を実行する機能だ。破産しても研修が続けられる——これがこのボタンの存在理由だ。
「全員破産」の危機
研修中盤、参加企業4社のうち3社が破産した。残り1社が健在だが、競争相手がいない状況では研修として機能しない。ファシリテーターが緊急融資を実行した。3社が復活した。追加の学びが生まれた。「緊急融資を受けた後、どう立て直すか」というテーマだ。資金はあるが負債が増えた状態で、どんな判断をするか。これは現実の経営でも起きる状況だ。
ポップアップブロック問題
以前の実装に問題があった。緊急融資ボタンを押すと、JavaScriptのconfirm()ダイアログが表示される設計だった。しかし一部のブラウザ環境では、ポップアップブロッカーが有効だとconfirm()ダイアログがブロックされる。研修中に「ボタンを押したのに何も起きない」という事態が発生した。
モーダルダイアログに置き換えた
confirm()ダイアログをHTML/CSSで作ったモーダルダイアログに置き換えた。ブラウザのポップアップブロックはページ内のモーダルには作用しない。融資額を選択するUI(50万〜300万の6択)も追加し、「緑ボタンで実行」という案内文も加えた。
研修中のトラブルは、参加者の学びより「ファシリテーターへの不信感」を生む。UI/UXの改善は、研修の質を守るための必須作業だ。
実際の研修での使用場面と参加者の反応
緊急融資ボタンを実際の研修で使った場面を記録しておく。この機能の本当の価値は、使った後の参加者の変化にあった。
最初の使用事例(ある創業カレッジ):
8名・4チームの研修で、ターン3終了後に1チームが破産した。初期現金700万円から始まり、積極的なDX投資と採用を進めた結果、資金が底をついた。ファシリテーターが緊急融資を実行し、300万円を投入して復活させた。
参加者の反応が予想外だった。「戻ってきた」という安堵より、「なぜ破産したか」を即座に分析し始めた。「DX投資100万円×3ターン+採用2人の労務費×3ターン=合計540万円の投資。売上収入が間に合わなかった」という分析を、その場で他チームのメンバーと共有した。破産が「学びのトリガー」になった。
緊急融資後のターン4でそのチームが採った戦略が印象的だった。DX投資を一時的に縮小し、生産を増やして売上を確保することを優先した。「資金を回復させてからDXを再開する」という、現実の経営再建によく似た判断だ。
使用頻度の実態:
これまでの研修で、緊急融資を1回も使わなかった回は3割程度だ。残り7割の研修では、少なくとも1社が破産して緊急融資を使っている。「全員が安全に生き残る研修」より「誰かが破産して、そこから学ぶ研修」の方が、振り返りの密度が高い。
緊急融資ボタンがなければ、「破産したら終わり」という設計しかできなかった。「終わりにしない」という選択肢があることで、失敗を学びに変えられる。
*次回は「AIが研修の『先生』になった瞬間」*
「必要ないかも」から「なくてはならない」へ
緊急融資ボタンを実装するとき、正直「本当に使われるかどうか分からない」と思っていた。
ゲームのパラメータを調整して破産率を適切な水準に抑えれば、緊急融資を使う機会は減るはずだ。「あれば安心だが、使わないに越したことはない機能」という位置づけで実装した。
しかし実際の研修データは違った。これまでに開催した研修で、緊急融資を1回も使わなかった回は全体の3割程度だ。残り7割の研修では、少なくとも1社が破産している。「破産しない研修」を目指してパラメータを調整していたが、「破産するからこそ学びが生まれる研修」の方が振り返りの質が高いことが分かってきた。
最も印象的だった使用場面を記録する。6名・3チームのゲームで、ターン4に1チームが破産した。ファシリテーターが緊急融資300万円を実行した後、そのチームが採った戦略は「生産重視・DX投資縮小・採用凍結」だった。破産前の積極投資路線から、保守的な生存重視路線への大転換だ。最終的にそのチームは3位だったが、「なぜ破産したか・破産後にどう判断したか」の振り返りが、他の2チームの参加者にとっても最も深い学びになった。
緊急融資は「失敗を許容する設計」の具現化だ。失敗できる環境だからこそ、大胆な判断と深い反省が生まれる。これまでの全研修で緊急融資が使われた回数は計11回。1回あたり平均200万円が投入されている。
*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*