FAX帳票の読取精度を100%にすることはできない。
これは諦めではなく、FAXという媒体の本質に起因する。コピーの世代劣化・事務所の機械によるスキャン品質の差・手書き文字の個人差・帳票の傾き・インクのかすれ。これらは帳票が届くたびに変わる。プロンプトをどれだけ精緻に書いても、「この帳票でこの文字」という個別の状況には対応しきれない。
問題は精度ではない。精度が完璧でないときに、何が起きるかだ。
5%の誤認識は業務損害になる
精度95%の帳票があったとする。
100行の明細があれば、5行は誤認識されている。5行の誤りが確認されずに業務システムに入ったとき、発注量が違う・納品日がずれる・商品名が間違っているという問題が起きる。これは「AIが悪い」ではなく、「確認プロセスが悪い」という問題だ。
「AIが読み取る、人間が確認する」という前提でシステムを設計することが誠実な設計だ。
手作業転記との比較
精度80%の帳票があったとして、「手作業転記」と比べる。
手作業転記:担当者が帳票を見てキーボードで1行ずつ入力する。入力ミスは集中力に依存する。速くはできない。
AI読取+確認:AIが読み取った結果を確認・修正する。「正しい行はOKを押すだけ」「間違いは修正する」という操作になる。
精度80%でも、「80行はOKを押すだけ、20行を修正する」という作業は「100行を自分で入力する」より効率的だ。効率の差がこのシステムの価値だ。
確認UIが良ければ精度の低さをカバーする
信頼度フィルタと一括OKが、このシステムで最も重要な機能だ。
精度が高い行(信頼度high)を一括OKにして、精度が低い行(信頼度low)だけに集中する。全件を1つずつ確認する必要がない。
確認UIが悪ければ、AIの精度が90%あっても「10%の誤認識を探すためにわざわざ確認する手間」が生じる。確認UIが良ければ、AIの精度が70%でも「要確認30件にすぐ到達して修正できる」。
設計の優先順位として、プロンプト改善より確認UIが先だ。
プロンプトで改善できること・できないこと
4社の帳票を試して見えてきた境界線がある。
改善できること:帳票の構造の説明、商品名の候補リスト提供、単位の明示的な指定。これらはプロンプトで精度が上がる。
改善が難しいこと:手書き文字の品質、スキャンの傾き、インクのかすれ。これらは帳票が届くたびに条件が変わる。プロンプトで説明できない。
プロンプトで対処できないものは確認UIで対処する。これが現実的な分担だ。
このシステムのフェーズ
本システムは現在「動く状態」にある。実際のFAX帳票を読み取れる。確認画面で修正・確認できる。本番環境でHTTPS稼働している。
次のフェーズは担当者によるUX確認だ。「どこが使いにくいか」「どの帳票が特に手間か」というフィードバックを受けて、確認UIとプロンプトを調整する。
完成したシステムを渡して終わりではなく、使われながら育てる。AI読取システムはそういうものだと思っている。
*シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦*