最初に作った有料商品は、九千八百円の「AI実行プラン」だった。
無料の詳細診断のあとに、これを買ってもらう想定だった。診断結果をもとに、もう少し具体的なプランを出す。名前も悪くないと思っていた。
ところが、自分で完成品を並べてみて、手が止まった。これは、無料診断の続きにしか見えない。
工数の話も、優先順位の話も、進め方の話も、無料の段ですでに出している。そこに少し足しただけのものを、九千八百円で売る。買う側からしたら、「さっき無料で見たやつの、ちょっと詳しい版」だ。お金を払う理由が、自分でも説明できなかった。
「分かる」は無料、「動ける」を有料にする
どこで線を引けばいいのか。しばらく考えて、一つの言葉にたどり着いた。
無料は「問題と方向性」まで。有料は「数字と実行判断」から。
無料診断が答えるのは、「うちは何が問題で、どっちに向かえばいいか」だ。これは出し惜しまず、深く出す。けれど、それは言ってしまえば「分かる」までだ。
有料商品が答えるのは、「で、いくらで、どう実行に移し、社内をどう通すか」。これは「動ける」の領域だ。分かっていても、動けない会社は多い。数字の裏づけがない、社内を説得できない、何から手をつけるかの順番が決められない。そこを埋めるのが、有料の仕事だ。
「分かる」と「動ける」のあいだに、はっきり線を引く。これで、有料が無料の続きに見える問題の正体が分かった。私は線を引かずに、同じ「分かる」を二度売ろうとしていたのだ。
商品を「稟議パック」に作り直す
線が決まると、作り直す中身も決まった。
新しい有料商品は、名前も変えた。プランではなく、「AI導入判断・稟議パック」。社長が社内で「これを進める」と判断し、それを通すための一式、という位置づけにした。
中身も、無料の延長ではなく、実行判断のための道具で固めた。投資対効果の試算。今のやり方から、改善後のやり方への流れ図。七日・三十日・九十日でどう進めるかの計画。法務やセキュリティ上の注意点。そして、社内に出せる稟議書のたたき台。
これらは、無料診断では絶対に出していなかったものだ。無料は「向き・不向きと方向性」、有料は「金額と段取りと社内合意の材料」。渡すものが、はっきり違う。
商品名を「判断と稟議のための一式」と言い切ったことで、買う理由が一言で言えるようになった。「社内を通すための材料が、ここにある」。
売らないものを、先に決める
作り直しでもう一つやったのは、「この商品では提供しないもの」を先に決めることだった。
九千八百円で、個社固有のシステムの詳細仕様までは出さない。画面単位の設計もしない。担当者がつく個別コンサルもしない。効果や精度の保証もしない。実装作業そのものも、ここには含めない。
これを最初に書いておくのは、一見すると弱気に見える。できないことを並べているように見えるからだ。
でも逆だった。提供しないものをはっきりさせると、提供するものの輪郭がくっきりする。「これは、判断と稟議のための材料です。実装そのものではありません」と言い切れる。買う側も、過剰な期待で買って後でがっかりする、ということが減る。
そして、これは一人で回す事業にとって、もっと切実な意味がある。「売らないもの」を決めておかないと、九千八百円の商品なのに、個別の相談や実装まで巻き取られて、気づけば自分の時間が無限に溶けていく。境界線は、品質のためでもあり、自分を守るためでもあった。
値段ではなく、買う理由を作り直す
この回でやったことは、値段の調整ではない。九千八百円のままだ。変えたのは、買う理由のほうだった。
無料の続きを少し詳しくしたもの、から、社内を通して実行に移すための一式、へ。「分かる」の延長ではなく、「動ける」の入口へ。提供するものと、提供しないものを、はっきり分けて。
有料商品がうまく売れないとき、つい値段やオマケをいじりたくなる。けれど効いたのは、「これは、無料とは違う何のための道具なのか」を、もう一度きちんと決め直すことだった。
ここまでで、無料から最初の有料までの設計が固まった。最終回は、この階段の足元を支える地味な話だ。どれだけ良い設計でも、診断の数字が一件でも狂えば、信頼は一瞬で崩れる。その数字を、どう守ったかを書いていく。