中小企業の社長さんと話していて、「うちもAIを導入したいんですよ」と言われたことは、実はほとんどない。
言われるのはいつも、別の言い方だ。毎月の請求書の入力がしんどい。あの人にしか分からない作業があって、休まれると止まる。問い合わせメールを転記するのに半日かかる。──困っているのは「AIが無いこと」ではなく、「時間を奪う仕事があること」だった。
私は中小企業診断士として、こういう相談をずっと受けてきた。そして新しく「AI・DXの活用を診断するサービス」を自分で作ろうとしたとき、最初にぶつかったのが、この当たり前の事実だった。
誰も、AIそのものは欲しがっていない。
「AIを売る」と決めた瞬間に、ずれる
新しいサービスを考えるとき、つい「AIを使った◯◯」と名付けたくなる。そのほうが新しく見えるし、流行にも乗れる。
でも、そう名付けた瞬間に、お客さんとの距離がずれる。社長が見ているのは自社の業務であって、AIという技術ではない。「AIを導入しませんか」と言われた社長は、たいてい身構える。よく分からないものを売りつけられそうだ、と感じるからだ。
だから事業の名前と入口を、技術の側ではなく、相手の困りごとの側に寄せることにした。打ち出すのは「AIを導入する」ではなく、「時間を奪っている仕事を減らす」。その仕事が、AIや自動化で本当に減らせるのかを、まず診断する。
主役はAIではなく、相手の業務だ。これを最初に決めておかないと、この先の設計が全部ずれていく。
なぜ「診断」を入口にしたのか
商品として最初に置くものを、私は「診断」にした。コンサルでも、ツールでもなく、診断。
理由は二つある。
一つは、相手の心理的な段差が低いこと。「コンサルを受けてください」は重い。お金も時間もかかりそうだし、売り込まれる予感がする。けれど「三分で、自社の仕事がAIに向いているか分かります」なら、構えずに試せる。まず軽く触ってもらう入口がいる。
もう一つは、自分の仕事の本質がそこにあるからだ。診断士の価値は、ツールを納品することではない。「あなたの会社は、まずどこから手をつけるべきか」を見立てることにある。その見立てこそが、いちばん最初に渡せる価値だった。
だから入口は診断にした。三分で適合度を返す入口診断を置いて、その先に、もっと詳しい診断を用意する。社長が見たいのは「うちは何から減らせるのか」だ。それに最短で答える。
入口で返すのは「向き・不向き」だけにする
ここで一つ、我慢が必要だった。
無料の入口診断で、つい全部答えたくなる。具体的な手順も、効果の金額も、導入の進め方も。親切のつもりで盛り込みたくなる。
でも、入口で全部出してしまうと、相手はそこで満足して帰る。そして後で見返したとき、結局なにも進んでいない。情報をもらっただけで終わってしまう。
だから入口診断で返すのは、向き・不向きと、候補になる業務、ざっくりした削減の幅、そして「次に何を確かめればいいか」まで、と決めた。具体的な製品名や、細かい金額や、導入の段取りは、ここでは出さない。
出し惜しみではない。入口は入口の仕事に徹する、ということだ。「あなたの会社は、たぶんこの三つの仕事が向いている」とだけ伝えて、その先を一緒に見ていく。役割を分けると、入口は驚くほど軽くなる。
何を売るかを決めると、作るものが決まる
事業の出発点で、私は派手な機能を考えなかった。代わりに、たった一つのことを決めた。
これは「AIを売る事業」ではなく、「お客さんの仕事のうち、何を減らせるかを見立てて、その一歩目まで連れていく事業」だ、と。
この一文を決めただけで、その後の設計が一気に楽になった。入口は重くしない。最初に返すのは向き・不向き。具体は段階を追って出す。──作るものの優先順位が、ぜんぶここから逆算で出てくる。
新しい事業を作るとき、いちばん最初にやるべきは、機能を考えることではなかった。「自分は、誰の、何を、どう解くのか」を一文にすることだった。技術は、その後でいい。
次の回は、この入口診断を「無料でどこまで出すか」という話だ。無料で出し惜しみせず、それでも有料商品が売れる。その境界線を、どう引いたかを書いていく。