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開発記録 / DX経営ゲーム制作記 / Vol.9 検証という仕事

記事 38

「利益は出たのに現金がない」をゲームで再現する

製造原価報告書とキャッシュフロー計算書の実装。三帳票の整合性をどう検証するか。

2026-06-06 公開

経営数字を学ぶとき、損益計算書だけを見ていると理解しにくいことがある。その代表が、利益と現金の違いだ。帳簿上は黒字でも、支払いに必要な現金が不足すれば経営は続けられない。

「DX経営ゲーム」では、参加者が価格、生産、仕入れ、設備投資、デジタル投資、借入や返済などを毎ターン決定する。結果として売上や利益だけでなく、在庫、自己資本、現金残高も変化する。開発を進める中で、この関係を参加者がより詳しく確認できるよう、製造原価報告書とキャッシュフロー計算書を実装した。

製造原価は、材料費、労務費、諸経費の三つに分けている。当期製造原価は、この三項目の合計だ。一方、損益計算書に計上される売上原価は、当期製造原価と同じではない。期首製品棚卸高に当期製造原価を加え、期末製品棚卸高を差し引いて求める。

つまり、今期に製造したものがすべて今期の費用になるわけではない。売れずに残った製品は在庫となり、資産として次のターンへ持ち越される。生産しすぎれば現金は材料や加工費として先に出ていくが、損益上の費用にはまだ全額現れない場合がある。

この時間差が、「利益はあるのに現金が少ない」という状態を生みる。参加者が損益計算書だけを見ていれば、なぜ資金繰りが苦しくなったのか分かりない。製造原価報告書とキャッシュフロー計算書を並べて見ることで、どの活動に現金を使ったのかを追えるようになる。

キャッシュフロー計算書では、現金の動きを営業、投資、財務の三つに分けている。営業キャッシュフローでは、本業による収入と、仕入れ、製造、販売管理などの支出を扱いる。投資キャッシュフローでは、設備やDXへの投資を扱いる。財務キャッシュフローでは、借入と返済による増減を扱いる。

たとえば、将来の競争力を高めるためにDX投資と設備投資を同時に増やせば、投資キャッシュフローは大きなマイナスになる。戦略として正しくても、手元資金が不足すれば次のターンの仕入れや生産ができない。借入で補えば現金は増えるが、返済や利息を考える必要がある。

この機能の実装では、画面に項目を追加するだけでは不十分だった。ターン計算の各段階で発生した金額を、結果データとして保存し、履歴APIで返し、参加者画面へ表示する必要がある。製造原価とキャッシュフローに関する項目は結果テーブルへ追加され、テスト仕様にも計算式と確認項目を記載した。

検証では、当期製造原価が材料費、労務費、諸経費の合計になっているかを確認する。売上原価については、期首在庫、当期製造原価、期末在庫の関係を確認する。キャッシュフローについても、営業、投資、財務の各区分と、期首・期末の現金残高が矛盾しないことを確認する。

数字が画面に出ているだけでは合格にできない。別々の帳票が同じ取引を異なる観点から表すため、相互の整合性が必要だ。ある支出が現金残高を減らしているのに、どのキャッシュフロー区分にも含まれていなければ説明できない。製造原価の合計と損益計算書の原価が無条件に一致していても、在庫がある場合には計算が疑われる。

製品在庫の評価単価には、以前から持っていた在庫と、当期に新しく製造した製品の原価を合わせる必要がある。テスト仕様では、旧在庫の数量と単価、当期製造原価、製造後の合計数量から移動平均を求めることを確認項目にした。販売時の原価は、この在庫評価と整合していなければならない。

原材料についても、仕入数量だけでなく購入単価が変化する。基本単価にイベントの倍率が掛かり、データ活用への投資によって調達面の効果が出る仕様だ。したがって、同じ数量を仕入れても、会社の状態やイベントによって現金支出は変わる。会計表示を検証するときは、画面の合計値だけでなく、その前提となる数量、単価、イベント、DX能力まで確認する。

こうした計算項目は、個別には正しくても、保存時の項目対応を間違えると帳票全体が崩れる。そこで、エンジンの計算、結果テーブルへの保存、履歴APIの応答、画面表示を段階ごとに確認する構成にした。どの層で数値が変わったのか追跡できるようにするためだ。

ゲームに会計機能を入れる目的は、帳票の名前を覚えてもらうことではない。意思決定と数字の変化を結びつけることだ。仕入れを増やした、生産量を増やした、設備へ投資した、借入を行った。その判断が利益、在庫、現金へどう波及したのかを自分の結果として見てもらいる。

実際の経営では、売上が伸びている企業でも資金繰りに苦しむことがある。成長のために在庫や設備へ先行投資するほど、現金管理は重要になる。ゲーム内で同じ構造を小さく再現できれば、黒字と安全は同義ではないことを体験できる。

製造原価報告書とキャッシュフロー計算書の追加は、単なる表示項目の増加ではありなかった。経営判断を、利益だけでなく、原価、在庫、資金の流れから振り返るための基盤だ。「なぜ利益が出たのか」「なぜ現金が減ったのか」を説明できることが、次の意思決定の質を高める。