# アンケートをAIへの設計指示書に変えた——仕様改善提言書の作り方
初回本番が終わった翌日、アンケート結果を眺めながら私は一つの仮説を立てた。
「参加者の感想をそのままAIへの実装指示に変換できるのではないか」
満足度4.7という高い評価をもらいながら、同時に「DX投資の効果が実感しにくかった」「因果関係が読み取りにくかった」という声もあった。これは貴重なフィードバックだ。
アンケートの限界
通常、アンケート結果は「次回に活かします」で終わることが多い。
理由は明快で、「感想」と「仕様」の間には大きなギャップがあるからだ。参加者は「なんとなくわかりにくかった」と言うが、それをどう直すかはエンジニアが考えなければならない。
私はこのギャップを埋める文書を作ることにした。それが「仕様改善提言書」だ。
提言書の構造
提言書は以下の構造で作成した。
1. 目的(なぜこの提言をするか)
2. 現状の評価(良い点・課題)
3. 改善提言(7項目)
各提言:
- 課題の説明
- 具体的な実装案(例文付き)
- 期待効果
4. 優先順位マトリクス
重要なのは「具体的な実装案」だ。「もっと分かりやすくする」ではなく、「ターン結果に以下のような文章を表示する」と書く。
価格競争力が高く、販売数量が伸びました
在庫過多により保管費が増加しました
自動化DXの蓄積により供給力が改善しました
これがあれば、AIはそのまま実装できる。
7つの提言とその優先度
提言書には7項目を盛り込んだが、実装コストと学習効果でマトリクスを作った。
| 提言 | 学習効果 | 実装コスト | 優先度 ||-----|---------|-----------|--------|| ①なぜそうなったか表示 | ◎ | 低 | 最優先 || ②DX効果可視化 | ◎ | 低 | 最優先 || ⑤イベント対策要因 | ◎ | 中 | 最優先 || ④順位変動演出 | ○ | 低 | 短期 || ③戦略タイプ診断 | ○ | 低 | 短期 || ⑦T1解説(ファシリ) | ◎ | 最低 | 即対応 || ⑥採用と組織能力連動 | △ | 高 | 慎重 |
この整理があれば、「何から手をつけるか」が明確になる。
AIへの渡し方
提言書をそのままClaudeに渡した。
指示はシンプルだ。「最優先3件から実装してください」
するとClaudeは:
- 既存のAPIレスポンスに新フィールドを追加するための
results.pyの変更 - 参加者画面の動的インサイト表示のJavaScript
- DX変革ゲージのHTML/CSS/JS
- イベント個別影響説明の実装
を一括で実装した。
私がやったのは:
- 提言書を書く
- 指示を出す
- デプロイする
- ブラウザで確認する
コードの細部はAIが書いた。
「感想」を「仕様」に変換するスキル
この経験から気づいたのは、「感想→仕様→AIへの指示」という変換スキルが、これからのシステム開発で重要になるということだ。
ユーザーの声を拾い、それを具体的な実装案に落とし込む能力——これはエンジニアでなくても磨ける。私は中小企業診断士として、顧客の曖昧なニーズを具体的な施策に変換する仕事を長年やってきた。
その能力がそのまま、AIへの指示書作成に使える。
技術的なコーディングスキルがなくても、「何を作るべきか」を具体的に言語化できる人間が、AIと一緒にシステムを作れる時代になった。 それがこのシリーズで伝えたいことの核心だ。
提言書を書く習慣のすすめ
この経験から、私はシステム開発のプロセスに「提言書フェーズ」を組み込むようになった。
ユーザーの声を聞く→課題を整理する→優先度をつける→具体的な実装案を書く——このプロセス自体は、コンサルタントが日常的にやっていることだ。
違いは「実装案」の粒度だ。「改善する」ではなく「この文言を表示する」「このAPIフィールドを追加する」まで落とし込む。
そこまで書ければ、AIはほぼそのまま実装できる。書けなければ、AIとのやり取りで詰めていけばいい。
提言書を書く作業自体が「何を作るべきか」を明確にする思考プロセスであり、AIへの最良の指示書になる。エンジニアではない人間がAIと協働してシステムを作るための、最も実践的なアプローチだと私は考えている。
「感想」と「仕様」の間にある翻訳作業
中小企業診断士として15年間やってきた仕事の核心は、「顧客の曖昧なニーズを具体的な施策に変換する」ことだ。
「売上が上がらない」→「どの商品が、どの顧客層に、なぜ売れていないか」を分解する。「経費を削減したい」→「どの費目を、いくら、どの方法で削減するか」まで落とし込む。
この作業をAIへの指示書作成に応用しただけだ。
「DX効果が分かりにくい」→「dx_data_cumフィールドをhistoryに追加し、L1/L2/L3のプログレスバーを表示する」。
翻訳作業の精度が、AIアウトプットの品質を決める。それはコンサルタントにとって、むしろ得意領域だ。