前の回で、適合判定の話の最後に、版を固定する、と書いた。今回はその中身だ。
きっかけは、ある過去の見積を見直したときだった。なぜこの金額を出したのか、思い出せなかった。価格を変えたあとだったのか、前だったのか。ルールはどの時点のものだったのか。自分の出したものなのに、再現できない。これは、無人でやるなら致命的だと思った。
価格をコードに書くと、過去が消える
最初、商品名や価格は、プログラムの中に直接書いていた。
動くには動く。けれど、価格を一度変えると、前の価格がどこにも残らない。半年前の見積が、今のルールで上書きされて見える。どの時点の条件で、その判定や金額が出たのか、たどれなくなる。人がいれば「あの頃はこうだった」と覚えている。無人には、その記憶がない。
商品も、ルールも、外に出して版を持たせる
そこで、商品も、価格も、判定のルールも、プログラムの外に出した。
管理画面から扱える形にして、変えるたびに版を残す。商品の版、価格の版、判定ルールの版、AIへの指示文の版。それぞれが、いつのものかを持っている。コードを書き換えるのではなく、版を足していく。過去の版は、消さずに取っておく。
出したものに、版を焼き付ける
肝心なのは、成果物や注文の側に、使った版を焼き付けておくことだ。
ある見積を出した瞬間、どの商品版で、どの価格版で、どのルール版で、どの指示文で作ったかを、その注文に固定して記録する。後で価格を変えても、過去の注文に紐づいた版は動かない。だから、いつでも当時の条件で、まったく同じ結論を再現できる。
後で価格を上げたとき、これが効いた。問い合わせのあった数か月前の見積を、当時の版でそのまま開ける。「あの時はこの条件でした」と、記憶ではなく記録で答えられる。言った言わないの話に、ならずに済む。
版があると、安心して直せる
版を残すことには、もう一つ、思わぬ効き目があった。思い切って直せるようになったのだ。
過去が上書きで消える作りだと、価格やルールを変えるのが怖い。前の判断が壊れるかもしれないからだ。けれど、版を足していく作りなら、過去はそのまま残る。だから、今の版を、ためらわずに変えられる。改善の速さは、過去を壊さない安心の上に乗っていた。
再現できることが、信用になる
これも、見た目には地味な作りだ。
けれど、無人で売る以上、「なぜその時その金額だったか」を後から説明できることは、そのまま信用になる。返金の相談が来ても、契約でもめても、当時の版で再現して見せられる。人の記憶に頼らず、仕組みが過去を覚えている。
一人でやっていると、半年前の自分は、ほとんど他人だ。その他人が出した判断を、責任を持って再現できる。版を固定するというのは、未来の自分に対する、最低限の誠実さだった。
次の回は、AIに任せてよい範囲と、間違いを出る前に捕まえる仕組みについて書く。