サイトはできた。あとは公開するだけだ。example-gallery.jp を、自分のEC2に向ける。
ドメインはお名前.comで管理されていた。今は別のサーバー((旧サーバーのIP))を指している。これを (サーバーのIP) に変えれば、新しいサイトが表示される。Aレコードを一行書き換えるだけ。簡単な仕事のはずだった。
一つだけ、絶対に触ってはいけないものがあった。info@example-gallery.jp だ。
ドメインには、サイト以外の住所もある
ドメインが指しているのは、ウェブサイトだけではない。
Aレコードは「このドメインのサイトはどのサーバーか」を示す。だがメールには別のレコードがある。MXレコードだ。「このドメイン宛のメールは、どのメールサーバーに届けるか」を示す。
example-gallery.jp のメールは、GMOのメールサービスを使っていた。Aレコードしか見ずにネームサーバーごと引っ越してしまうと、新しいDNSにはMXレコードが無い。ドメインは生きている。サイトも表示される。だが、メールだけが宛先を失う。届かない。エラーも出ないまま、静かに消える。
画家にとって、問い合わせ先のメールが止まることは、サイトが消えるより重い。
今のMXを、先に調べた
だから、引っ越す前に、今のMXレコードを調べた。
example-gallery.jp MX 10 mx21.gmoserver.jp
GMOのメールサーバーが、優先度10で受けていた。メールの本体はGMO側にある。ドメインの「向き先」を変えても、このMXさえ正しく引き継げば、メールは今までどおりGMOに届く。
手順はこうなった。新しいDNS(お名前のネームサーバー)に、まず mx21.gmoserver.jp のMXレコードを足す。それからAレコードを (サーバーのIP) に変える。古いサーバーへのAレコードは消す。ネームサーバーを切り替える。
順番が大事だった。MXを先に置いてから、向きを変える。サイトの引っ越しと、メールの引き継ぎを、同じ作業の中で両方やる。
切り替えは、片方だけ速い
レコードを直してもらって、確認した。Aレコードは新しいEC2を指し始めた。MXは mx21.gmoserver.jp のまま、変わっていない。サイトは新しく、メールは元のまま。狙いどおりだった。
ウェブの引っ越しは目に見える。アクセスすれば、新しいページが出るかどうかすぐ分かる。けれどメールは、止まっても気づきにくい。誰かが送って、届かなくて、でも送った人も受け取るはずの人も、しばらく気づかない。
だから、メールは「動いていること」より「止めないこと」を先に設計する。一行のMXレコードは、新しいサイトのどのデザインよりも、先に守るべきものだった。
ドメインを移すとき、人はサイトの向き先ばかり見る。けれど同じ住所には、メールという別の宛先も同居している。引っ越しのとき、忘れてはいけないのは、いつも目に見えない方だ。
次回は、そのドメインを五分でHTTPSにして、検索とAIに読まれる構造を仕込んだ話を書く。
シンプルシステム株式会社 代表 伊藤勝彦