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開発記録 / DX経営ゲーム制作記 / Vol.10 機能とドキュメントの間

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経営ゲームのAI相談を「答えを教える機能」にしない理由

GPT-4o-miniに現在の経営状態を渡しつつ、最終判断は参加者に残す設計。ルール早見表との役割分担。

2026-06-06 公開

生成AIを経営ゲームへ組み込むと聞くと、次に入力すべき正解を教えてくれる機能を想像するかもしれない。しかし、ゲームの目的が意思決定の練習であるなら、AIが毎回答えを決めてしまう設計は適切ではない。

「DX経営ゲーム」には、参加者画面にAI相談タブがある。次の戦略に迷ったときや、DX投資の優先順位を確認したいときに利用する。回答生成にはGPT-4o-miniを使用する仕様だ。

この機能で重視したのは、一般論だけを返さないことだ。AIへ現在の経営状況をコンテキストとして渡し、現金、在庫、DX成熟度、順位などを踏まえた助言を生成する。同じ質問でも、資金に余裕がある会社と、破綻寸前の会社では優先すべき行動が違うからだ。

たとえば「DX投資を増やすべきか」と質問されたとき、常に増やすと答えるのでは役に立ちない。現金が不足している会社では、仕入れや固定費を支払える状態を維持する必要がある。反対に、資金はあるがデータ基盤が不足している会社では、将来の変革に向けた基盤投資を検討できる。

ただし、AI相談は最終判断を代行しない。参加者マニュアルにも、回答は参考情報であり、最終的な判断は自分で行うと記載している。市場イベントや他社の意思決定まで完全に予測できるわけではなく、助言に従えば必ず成功するという機能ではない。

ここを曖昧にすると、学習の構造が壊れる。参加者がAIの指示どおりに数値を入力するだけになれば、結果が良くても、なぜその判断をしたのか説明できない。結果が悪かったときには、AIのせいにして振り返りを終える可能性もある。

そこで、AI相談とルール早見表の役割も分けた。ルール早見表には、意思決定項目、費用構造、DX変革の仕組み、イベント、競争力スコア、破産条件など、ゲームの確定したルールを掲載する。一方、AI相談は現在の状態を踏まえた解釈や検討材料を提供する。

確定情報を確認したいときはルール、判断の整理をしたいときはAI相談という使い分けだ。AIに仕様を毎回説明させるだけでは、表現が揺れたり、重要な条件が抜けたりする可能性がある。変わらないルールは固定された文書として提示する方が確実だ。

振り返り機能とも役割が異なる。1日版では、各ターン後に「何が起きたか」「なぜそうなったか」「何を変えるか」という三段階で考える。AI相談は、この思考を助けることはできるが、参加者自身の観察や仮説を置き換えるものではない。

実装上は、AI相談のAPIが正常に応答することだけでなく、必要な会社情報が取得できること、画面から送信できること、応答が表示されることを確認する。また、OpenAIのAPIキーが設定されていない環境では外部AI機能が動かないため、設定とエラー表示も運用上の確認事項だ。

生成AIを使う機能では、正常系だけを見ていると危険だ。通信が遅い場合、外部サービスが応答しない場合、回答生成でエラーが起きた場合にも、画面全体が使えなくならないことが必要だ。AI相談が停止しても、意思決定入力や結果確認など、ゲーム本体は継続できる構成が望まれる。

回答内容についても、数値を断定的に指定することより、参加者が確認すべき観点を示す方が、このゲームには合いる。在庫が不足している、現金が減っている、DX投資が一分野へ偏っている、といった状態を示し、複数の選択肢と注意点を伝える。

AIへ渡す情報にも範囲がある。相談に必要な会社状態は使いるが、関係のない情報まで増やせばよいわけではない。現在の経営判断に関係する数値を選び、回答の前提が分かる形にする。入力データが多すぎると重要な状態が埋もれ、少なすぎると一般的な助言になる。

検証時には、質問を送れることに加え、異なる会社状態で回答の前提が変わるかも確認対象になる。ただし、生成文を一字一句固定して比較する方法は向きない。見るべきなのは、会社の現金や在庫など、渡した状況と矛盾する助言になっていないか、危険な断定をしていないかという点だ。

また、AIのモデル名や利用条件は変更される可能性がある。画面、仕様書、マニュアルに記載する場合は、実際の設定とずれないよう更新が必要だ。外部サービスを組み込む機能では、コードだけでなく運用設定も仕様の一部になる。

AIを追加すると、機能として目立ちる。しかし、目立つことと役に立つことは別だ。何をAIへ任せ、何を利用者へ残すのかを先に決めなければ、便利そうなだけの機能になる。

今回のAI相談は、正解を配るためではなく、自分の会社の状態を別の角度から見るための機能だ。相談した後に、参加者が自分で判断し、結果を振り返り、次の仮説を立てる。その循環を壊さないことを設計条件にした。