DXを題材にした経営ゲームを作るうえで難しいのは、投資の効果をどう見せるかだ。参加者がデータ活用、自動化、オンライン販売、意思決定高度化へ投資しても、結果画面に売上と利益しか出なければ、何が効いたのか分かりない。
「DX経営ゲーム」では、デジタル化を複数の段階と能力に分けている。データ基盤、自動化、販売・顧客接点、意思決定高度化などへの投資が蓄積され、一定の条件を満たすとDX変革成功へ進む。
しかし、内部で正しく計算されているだけでは学習には不十分だ。参加者から見れば、投資を増やした後に利益が上がっても、価格、需要、イベント、在庫など別の要因かもしれない。投資と結果のつながりを説明できる表示が必要だった。
そこで参加者画面の結果タブに、動的インサイト「今ターンの着目点」と「DX変革への道」というゲージを追加した。また、一部のイベントでは、会社ごとの状態に応じた「あなたへの影響」を表示するようにした。
これらの表示は、固定された解説文ではない。会社の履歴データを読み、そのターンの数値に応じて内容を変える。そのため、画面だけを変更しても実現できない。履歴APIが、DXに関する累積値や未充足需要、オンライン販売比率などを返す必要がある。
実装では、企業履歴を取得するAPIへ、dx_data_cum、dx_auto_cum、dx_sales_cum、dx_decision_cumなどの項目を追加した。これらは各分野への累積投資状況を表する。画面は最新ターンの値を使って、どこまで進み、何が不足しているかを表示する。
ここで注意したのは、単純な合計だけを見せないことだ。DX変革成功には、総投資額だけでなく、基盤となる能力や選択した変革宣言との整合が必要だ。特定分野だけへ偏って投資しても、必要な土台がなければ成功しない。
この仕組みによって、参加者は「かなり投資したのになぜ成功しないのか」を確認できる。データ基盤が不足しているのか、自動化が足りないのか、販売面が弱いのか。次のターンで何を補うべきかを考えられる。
動的インサイトでは、DXだけでなく、欠品や在庫、利益、現金など、そのターンで注目すべき状態を示する。たとえば未充足需要が多ければ、売れなかった理由が需要不足ではなく、在庫や生産能力の不足だった可能性を考えられる。
イベント個別影響も同じ考え方だ。同じ外部環境イベントが起きても、全企業が同じ影響を受けるとは限りない。オンライン販売比率やDX能力など、事前の意思決定によって恩恵を受ける企業と警告が必要な企業に分かれる。
この表示を追加するには、イベント名だけでなく、判定に使う会社状態を取得する必要がある。仕様書では対象イベントと表示条件を定義し、テスト仕様では条件を満たした場合と満たさない場合の両方を確認対象にした。対象外のイベントでは個別影響欄を表示しないことも確認する。
表示の追加後は、APIが新しい項目を数値として返すこと、最新ターンの値を参照すること、データが不足する場合にも画面全体が停止しないことを確認する。新機能は正常時だけでなく、過去データや未入力状態も考慮しなければならない。既存ゲームには追加前のデータが含まれる可能性があるためだ。
また、効果を強調しすぎないことも意識した。DX投資をすれば無条件に成功するのではなく、資金を使うため短期的には利益や現金を圧迫する。能力を蓄積しても、市場に合わない価格や生産判断をすれば業績は伸びない。DXは経営判断を置き換える万能策ではなく、判断や業務を支える能力として扱っている。
DXの効果を説明する機能は、数字を飾るためのものではない。参加者が自分の意思決定を振り返るための手掛かりだ。「投資したから上がった」「上がらなかったから無駄だった」という短絡的な判断を避け、基盤、実行、成果の関係を見てもらいる。
開発上も、計算ロジック、保存データ、API、表示、説明文、テストがつながっている必要がある。画面だけが新しくても、APIが古ければ値は出ない。APIが値を返しても、仕様書やマニュアルに説明がなければ、利用者も運営者も意味を判断できない。
今回の機能追加後には、参加者画面、仕様書、システム設計書、参加者マニュアルを実装と照合した。AI相談、採用、DX効果、イベント対策要因、製造原価、キャッシュフローなどが現行版へ反映されていることを確認している。
DX施策は、現実の経営でも効果が見えにくいことがある。売上だけでなく、処理時間、欠品、判断速度、顧客接点など複数の変化を追う必要がある。ゲームでも、投資結果を一つの順位へ押し込めず、途中の能力と因果関係を見せることが重要だった。
「効いた気がする」を「どこに、どのように効いたか」へ変える。そのためには、結果表示を最後の飾りではなく、設計の一部として作る必要がある。